新しい政権と地域医療政策の動向について考える

2009年10月 京都自治労連・病院対策委員会

先の衆議院選挙では、弱肉強食で貧困と格差を広げた「構造改革」の政治に厳しい審判がくだされ、自公政権(以下「旧政権」)が退場して、民主党中心の新しい政権(以下「新政権」)が誕生しましたが、この結果は、国民生活や地域経済の破壊に対する国民の激しい怒りと、地域医療を守る取り組みをはじめ、さまざまな分野での要求運動などの大きな反映と言えます。

新政権は、「連立政権合意」の中で、医療分野では、「後期高齢者医療制度の廃止」「社会保障費・年2200億円抑制方針の廃止」「医療費(GDP比)の先進国(OECD)並みの確保を目指す」など、国民の世論と運動を反映して、旧政権の方針を転換する方向を打ち出しています。

また、医療提供体制にかかわって、民主党の2009年「政権公約マニフェスト」(以下、「2009年マニフェスト」)では、「医学部学生を1.5倍に増やし医師数を先進国並みにします。看護師などの医療従事者も増員します」と明記し、「民主党政策集INDEX2009」(以下、「2009年政策集」)では、「実働医師数を増加させるとともに、勤務医の不払い残業を是正し、当直を夜間勤務に改める等、医療現場の労働環境を改善します」など、医療改善に向けて一定の方向を打ち出しています。

しかし、こうした政策の具体化については、財源問題ふくめて、極めて流動的な要素を含むとともに逆行する動きも強まっており、新政権の誕生という新たな情勢の下で、引き続き運動を強めて、前向きの変化については、具体的な施策として早期に実施することを求める取り組みを強めることが必要になっています。
一方、民主党の医療提供体制についての過去の政策を振り返ってみると、2003年の政策では「社会的入院をなくし、病院に無為なお金がかからないよう病院の数と機能を集約する」とのべ、2006年の政策では、「一般病床(90万床)では・・・急性期型病床(39万床)を維持し、その他の一般病床(51万床)の半分(26万床)を削減する」「二次医療圏内で医療機関を機能別に区分して配置し、効率性を高める」と述べています。

民主党は結成(1998年統一大会)当初から、日本の医療問題の所在を「無駄」に求め、無駄の排除、すなわち「効率化」によって問題の解決を求める方向を示していましたが、医療提供体制においても、この考え方を引き継いだものと考えられます。

こうした表現は、2007年参議院選政策以降は、表向きには姿を隠しますが、根本から考え方が変更されるかどうかは、明確になっていません。

例えば「2009年マニフェスト」では、「当面、療養病床削減計画を凍結し、必要な病床数を確保する」としていますが、2009年総選挙に向けて明らかにした「医療政策詳細版」では、「現在の療養病床は居住施設への転換をはかりつつ、急性期病床から亜急性期病床へ、亜急性期病床から療養病床への転換を図りながら、総枠としての療養病床38万床を維持」としており、病床数全体の削減を前提にしていることがうかがえます。

また、「2009年政策集」では、「社会保険病院・厚生年金病院は公的存続を原則に」と、これも旧政権の方針を変更することを明確にしていますが、自治体病院については、「小泉構造改革」の産物である「公立病院改革ガイドライン」の中止・見直しについて、明記していません。

さらに、「4疾病5事業を中核的に扱う公的な病院(国立・公立病院、日赤病院、厚生年金病院、社会保険病院)は政策的に削減しません」と述べていますが、「中核的」でない病院はどうするのかは不明です。

財政面では、「地域医療を守る医療機関の入院については、その診療報酬を増額します。その際、患者の自己負担が増えないようにします」と述べていますが、外来・診療所への措置や診療報酬全体の引き上げ、医師確保への補助をはじめ診療報酬以外の病院への直接的な財政支援など、地域医療の現局面での困難に対応する緊急対策は見あたりません。

こうしたことから、民主党の医療提供体制にかかわる政策としては、一定の政策変更はあるものの、全体としては病床削減方向は変更せず、拠点病院への再編方向をとっているのではないかと危惧され、地域医療の実態を正しく反映しない政策が継続する危険性に留意することが必要と考えられます。

新政権の誕生という新たな情勢の下で、地域医療と自治体病院の困難の要因のいくつかは取り除かれる方向にあるものの、なお多くの課題が残されており、引き続く運動の強化が重要で、この運動の発展如何が今後の地域医療の動向を決定するといっても過言でないといえます。


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