(総務省「平成22年度公立病院に関する財政措置」(案)についての検討メモ)
2010/2/10 京都自治労連・病院対策委員会
総務省自治財政局は、さる1月25日、「平成22年度の地方財政の見通し・予算編成上の留意事項」について、都道府県・指定都市あてに事務連絡文書を出し、その中で、昨年に引き続き「公立病院に対する財政措置を充実」する方向を明らかにしました。
この文書は、平成22年度予算案が現在国会に提出中であり、まだ確定していないことを前提に、「地方公共団体の予算編成作業の状況にかんがみ」、「現時点における留意事項」として通知したものです。
(「平成22年度地方財政計画」は2月9日に閣議決定)
この文書の中では、具体的な措置単価など詳細は明らかになっていませんが、この間の地域医療と自治体病院を守り充実する運動が一定反映した方向が示されていると共に、さらに改善を要するものもありますので、現時点で一定のコメントを行います。
(1)「連絡文書」では、「病院事業については、昨年に引き続き、過疎地や産科、小児科、救急医療、などの不採算部門における医療の提供、公立病院における医師確保対策の推進等に係る所要額を確保するとともに、周産期医療の拡充を図るほか、新たに感染症医療に対する財政措置を講じる等、地方交付税措置を拡充する」としています。
(2)「主な新規事業等」として総務省は、都道府県等の担当者への説明会で、下記のような内容を示すとともに、平成22年度の病院事業の財政措置「総額」としては、約700億円増額した昨年度から、さらに300億円程度増額して、7100億円程度にするとしています。(下記内容と300億円との差については不明であり、今後の検証が必要です)
(主な新規事業等)
[1] 感染症医療に対する財政措置の創設
感染症指定医療機関における良質かつ適切な医療を提供するための体制を確保するための経費に対して、地方財政措置を創設する。
(感染症病床数に応じて特別交付税により措置予定、22年度措置額84億円程度)
[2] 周産期医療に対する財政措置の拡充
周産期母子医療センターにおける満床状態の解消やNICU等に長期入院している児童にとってふさわしい医療提供のための体制を確保するための経費に対して、地方財政措置を充実する。(NICUやGCU等の病床数に応じて特別交付税により措置予定、22年度措置額166億円程度、うち拡充分66億円程度)
(1)22年度の財政措置については、まだ確定したものではなく、その詳細等は今後の国会論議や総務省通知などに留意し検証してゆく必要がありますが、「昨年に引き続き、過疎地や産科・小児科・救急医療などの不採算部門における医療の提供、公立病院における医師確保対策の推進等に係る所要額を確保する」とともに、新規事業等として「感染症医療に対する措置の創設」「周産期医療に対する措置の拡充」が明記されたことは、この間の私たちの運動や自治体・病院関係者などの要求を一定反映したものといえます。
しかし、かねてから要望の出ている精神科医療対策の充実などその他の措置は不明であり、引き続く改善が必要と考えられます。
(2)主な新規事業の中の「感染症医療に対する財政措置の創設」については、私たちが、新型インフルエンザへの対応をはじめとする感染症対策での病院の経費負担・収入減などに関する措置を求めていたことなどの一定の反映といえます。
しかし、今回の措置は、感染症指定医療機関の感染症病床数に応じた措置に限定されて、発熱外来設置にともなう財政負担(他部門の体制の一時縮小などの収入減等を含む)はじめ、感染症対策全体が考慮されない可能性もあり改善が必要です。
また、感染症対策経費については、地方公営企業法に規定する一般会計から病院会計への繰り出し項目・基準に明記されていないという根本問題がありましたので、今回の措置を実効あるものにするためにはこの点の改善が不可欠です。
(3)「周産期医療に対する財政措置の拡充」については、妊婦等の救急患者受け入れ困難の要因の一つになっているNICUの満床状態等の解消や、長期入院児童への医療提供体制の充実などに着目したものであり、平成22年度の厚生労働省関係予算で、民間・公的医療機関等を含む「周産期母子医療センター運営事業」経費等が拡充されたことをふくめて、周産期母子医療センターの運営困難の打開へ一定の意義があるものです。
周産期医療体制の強化のために、医師・助産師・看護師等の増員確保と養成増、勤務環境の改善、周産期母子医療センターの整備・拡充、地域の医療連携などとともに引き続く対策強化が重要です。
(4)また、今回の通知文書の中では、昨年の「21年度の地方財政対策」で明記された「病床利用率の交付税への反映の検討」などについてはふれていません。しかし新政権が、「公立病院改革ガイドライン」の見直し・撤回などに言及していないこともあって、今後具体化される危険もあり、引き続きその中止を求める運動と監視が必要です。
(5)さらに、自治体財政がますます困難になってきている事などから、交付税等の増額措置を病院への繰入金として反映しない動きが強まることも想定され、自治体当局の動向を注視すると共に、病院運営に正しく反映するよう要求を強めることも必要です。
(6)一方、22年度の政府予算案では、医師等確保対策費が昨年度から約100億円も削減されているうえに、本年度の診療報酬改定率が「実質ゼロ」の方向となっており、これらの病院運営への否定的影響が懸念されます。
新政権の「迷走」の要因の一つである財源対策については、消費税増税ではなく、内部留保を異常にため込んでいる大企業からの応分の負担を求め、思いやり予算はじめ軍事費を削減することなどが重要で、こうした対策を通じて、政権公約の「医療費(GDP比)のOECD並みの確保」を実行するよう求める運動の強化が重要です。
医師確保の臨時・緊急対策やガイドラインを前提にしない財政支援の強化など、地域医療・自治体病院の充実めざす要求と結合して、引き続き国にむけての運動を強めましょう。
20100210_22年度「公立病院に関する財政措置の拡充」について (154KB)
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