「認定子ども園」は、保育所と幼稚園が一体化した施設。同じ年齢の子どもたちが、保育も教育も受けられるなんていいんじゃない?と思うけど、本当のところ子どもにとってどうなのでしょうか?国の考える「認定子ども園」とそのねらいを考えます。 |
今秋から「認定子ども園」が本格実施されます。「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」を制定し、施設の名称は「認定子ども園」となる予定とのこと。
?保護者の就労の有無・形態等に関わらず就学前の子どもに対する教育・保育を提供すること
?子育て家庭への支援を行うこと
?国が定めるガイドラインを参考にして都道府県が定める認定基準をクリアすること
「認定子ども園」となるためには、この3点が充たせばよいといいます。
一見、幼稚園のいいところと保育所のいいところを合体させ、しかも地域の子育て支援もやる、そういう総合センターのようなところができるのかとの期待も寄せられています。しかし、その具体像がはっきりすればするほど、問題が多すぎる仕組みだということがわかってきました。
以下、導入されるとどんな状況が生まれるのかを具体的に未ながら3つの問題点を明らかにしたいと思います。
「認定子ども園」野第1の問題点は、現在ある基準を満たさなくても、幼稚園・保育所と同じことをやっても良いと認めることになるという点です。国が新たにさだめようとしている「認定子ども園」のガイドラインは「調理室設
置が望ましい」「ゼロから2歳児の職員配置は保育所と同様であることが望ましい」などと書き込まれそうなのです。「望ましい」というのは実質「それ以下でも構わない」ということ。そうなったら保育がどうなるのか???
-シュミレーション@その1-
A子さんは共働きで二人目のダイちゃんを出産。お姉ちゃんは認可保育園に通っているが、育休が終わる10月からダイちゃんは「認定子ども園」に通う。というのも。親が働いているいないに関わらず受け入れてくれるし、いちいち行政に申し込まなくてもいいらしい。何より「幼稚園と同じように『教育』をしてくれるらしいわよ」という近所のお母さんたちの話が決断を後押しした。もちろんお姉ちゃんの保育園に不満があるわけではない。ただ、小学校以降の教育についていけるか不安も感じていたA子さん、昨年まで幼稚園だったところが改築し「認定子ども園」となったのでそこに申し込んだ。
ダイちゃんは1歳クラスに入ることができた。A子さんにとって、お姉ちゃんの保育園とは違い、保育料が一律の料金で少し高いのが気になったが、園長先生から「乳児期からの早期教育のために特別の教材購入に当てるため」だと説明があり納得した。当初は順調だったが、しばらくしてA子さんには心配なことがでてきた。
ひとつは給食のこと。お姉ちゃんの保育園では園内の調理室で作られたおいしい、温かい昼食が出される。しかし、ここには調理室がなく専任の調理師さんもいない。外部の業者に委託して調理配送されるらしい。園内で温めなおし、年齢にあった食事内容にはなっているというが、一人ひとりの子どもの食事のことを真剣に考え子どもの気持ちになって調理してくれる職員がいない。楽しさ、活気にかける給食タイムだ。それにダイちゃんはアトピーの傾向があり、食事も別メニューが必要だと医者からいわれた。お昼時の先生方の忙しさは見ていてもたいへん、そんな個別の対応はとてもお願いできないだろう。
もうひとつ心配なのは、午後の保育の様子だ。今、ダイちゃんは1、2歳混合クラス20人に先生が3人、幼稚園の空き教室を改造した保育室で一日生活している。少し先生の人数が少ないのでは?と思って、お姉ちゃんの通う保育園の先生に聞くと、「認可された保育所では20人の子どもがいれば最低4人の保育士を配置しなくてはいけないんですよ。認定子ども園は保育所より低い基準でも認められてしまうんです。調理室がなく、専任の調理師さんがいないのも同じ理由です」そういわれてみると。3歳以上の保育にも気がかりな点がある。午前中は短時間の子も長時間の子も同じクラスで保育を受けているが、午後、短時間の子どもたちが帰ったあとは、全員がひとつの部屋で先生も別な方(どうも正規の職員ではないらしい)が担当している。一人ひとりの子どもの一日の様子が把握されているのかどうか、とても気になる。
A子さんは改めて「認定子ども園」に関する勉強をしてみて驚いた。法律を制定するそもそもはじめから「保育所の最低基準を満たさなくても、もっと低い基準でよいと都道府県が認めればそれでよい」ということがはっきり書いてあったのだ。そればかりか、都道府県が認めさえすれば、幼稚園の基準も保育所の基準も充たさなくても「認定子ども園」になれるのだ。基準を充たさなくても保育所と認めてしまえというのは一体どういうことか、それでは子どもを安上がりに預かるところを増やせというに等しい。
第2に認定子ども園は企業などが保育・幼児教育の分野に参入する道をさらに広げるものです。それによって、乳幼児期の「保育・教育」がゆがめられてしまうおそれはきわめて大きい。それらをどう考え、どう立ち向かうか???
-シュミレーション@その2-
B園長さんは今、真剣に悩んでいる。20年余り、保育園で働いてきた。3年前から園長を引き受けたが、近所に大手の学習塾が「認定子ども園」を開設した。東京都の独自の認定基準にパスしたのだそうだが、その売り物は1・2歳からの早期教育。読み書きはもとより、パソコン・英会話・体育教室など塾経営のノウハウを駆使して派手な宣伝をやっている。自園の保護者の間で「話題」になっていると聞き「教育」という点で親からどう見られているのか少し不安になっていた。
そんな時、教材会社から売込みがあった。早期教育教材一式とその使用方法マニュアルと教師向け研修がパッケージになった「認定子ども園移行プログラム」を勧められたのだ。「認定子ども園」になれば「教育やってますという広告塔がたったに等しく、その効果は絶大です」とセールスされた。
確かに、保護者全員に、幼児教育の本当の意味・姿を知ってもらうには時間がかかる。「子どもは日々の生活の中でたくさんのことを学んでいるんですよ、遊びの中で不思議だなと思ったことをとことん調べたり、泥だんごに熱中していろいろな工夫をしたり、けんかをしながらも友だちっていいなとわかっていくんです」などと、子どもの姿を話しながら「<人間としての基本となる力>は、紙の上のお勉強では学べないんです。生活そのものの中でこそ大事なことが学べる、それが本当の教育なんです」と、毎年保護者会で話しているが、納得してもらうには時間もエネルギーも必要だ。
そこまで考えてBさんはハッとした。「教育」の看板さえかけてしまえばと、セールスされたけど、それでは、教育とは何か、子どもには何が必要かを真剣に自分が保護者に語りかけなくなってしまうのではないか。目先の教育、表面だけの教育を子どもが求めているのではないことは明々白々のことだ。子どもに顔向けができないことをしてはいけない。やっぱり断ろう。
Bさんにははっきりと「認定子ども園」の意味が見えてきた。保育と教育を一体的に提供するとか言うけれど、実際のところはまるで反対だ。子どもたちの毎日の生活とおとなになるための「教育」を切り離して、午前はみんなが一緒に「教育」、午後は「生活」の時間だから学級も担任もいらないかのようになっている。それは「教育」を商品として売り込みたい企業側の策略であって、子どもの視点から見たら真の教育というのは「今、ここにある生活」を大事にすることから出発すべきなんだ。子どもの視点なき「認定子ども園」の問題を、みんなで考えていかなくてはいけない。「認定子ども園」への立候補を考えている園長さんも交えて、今度の園長会でも話をしてみよう。
第3の問題点は、「認定子ども園」が今ある公的な保育制度を壊すという恐ろしいたくらみの「道先案内人」にさせられようとしている点。保育所と同じことをやりながら「直接契約」で「保育料を園が自由に設定できる」という根幹のところが違っています。ポイントは自治体が、保育所の整備と、保育料の適正な設定に責任を追わなくてもいいようになる点にあります。
-シュミレーション@その3-
「認定子ども園」がはじまって3年。○○市の保育所担当Cさんは、「認定子ども園」が直接契約方式で、保育料が園ごとに自由に設定できる仕組みになっていることに不安を覚えていた。
直接契約というのは、保護者から見ると一見便利に見える。役所に申しこまなくてもいいからだ。しかし、自治体の関与がきわめて小さくなるので,ゆくゆくは市の姿勢次第で保育所を設置する責任を投げ捨ててしまうことが可能になる仕組みだということはあまり知られていない。現に、この市では待機児は増えているが,保育所増設に当局は全く消極的で、認可外施設や幼稚園の「認定子ども園」への転用を進めればよいという姿勢だ。
保育料も自由設定になって、いろいろなメニューで競走が起こりはじめていて、保育所自体の経営も苦しくなりはじめていると聞く。
こうした中で来年から、育児保険制度を導入し、保育所に直接補助金を交付する方式をやめ、親への保育料補助金を出すことが予定されている。これはとんでもないことだ。企業が補助金を簡単に受け取れるし、どう使ってもいいお金ということで歓迎する向きもあるが、そういう施設が増えれば、子どもの最善の利益なんて吹っ飛んでしまう、児童福祉法改正をゼッタイ阻止しなくては、保育は福祉でなくなってしまう・・・
「認定子ども園」については、まず、現行の認可基準よりも低い基準での認定を認めさせず、都道府県に高い認定基準を作らせることがまず大事です。そして、保育所制度解体の危険なねらいを広く知らせることに力を入れてとりくみましょう。
ちいさいなかま4月号<福島大学 大宮勇雄氏>より引用 作成:京都自治労連保育部会
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