(2005/08/01 京都自治労連・山本)
PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設の建設や維持管理・運営を、民間の資金や経営・技術能力を活用して行う手法のことですが、自治体病院での導入では、住民の医療要求をふまえた柔軟な病院運営ができるのか、業務の質が安定的に維持確保できるのか等の問題があります。
昨年3月に全国で初めて病院運営にPFI事業を導入し、オリックスが参入して注目された高知医療センターは、その後、「病院PFI事業は、はやくも財政難に直面。08年度から運営資金不足か。」「外来患者数など事業見通しが過大、材料費見積もりに大幅な狂い。いまは、失敗といえるのではないか。」などとも言われています。しかし、現在、東京都や京都市はじめ、自治体病院への導入の動きが強まっています。(関連資料は別添参照)
PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設の建設や維持管理・運営を民間の資金や経営・技術能力を活用して行う手法のことです。いままでは自治体が起債等で資金を確保し公共施設を建設・運営してきましたが、これに加えて、PFI方式で、民間企業に資金調達・公共施設の建設・運営をゆだねる事ができるようになりました。自治体はPFI会社と契約を結び、元利を長期(30年間など)で返済する事になります。この方法は、財政難でも公共事業推進できると、自治体が飛びつきやすい仕組みです。
自治体病院の場合も、新改築・増築時などに導入されることが一般的ですが、病院運営だけをPFIにゆだねる事例もあります。財界・政府の狙いは、「官から民へ」と公共業務の民間化をいっそう促進するとともに、国・自治体が財政難のもとでも新たな大型公共事業を確保できるようにする事です。
PFIの形態としては、
?公共施設の建設と維持管理をPFIで行うもの(施設整備型)
?施設建設・維持管理と運営を一体でPFIで行うもの(施設整備・運営一体型)?維持管理や運営のみをPFIで行うもの(維持管理・運営型)などがあります。病院でのPFIは運営と一体で行われる事例(高知医療センター・近江八幡市民病院・東京都立府中・・・・など)が一般的ですが、維持管理・運営型(大阪・八尾市立病院)の事例もあり、これは「業務委託の一括方式」とも言えるものです。
PFI事業の方式としては、BOT(建設後、PFI会社が所有権を持ったまま運営し、契約期間終了時点で自治体に所有権を移管する)、BTO(建設直後に、自治体に所有権を移管し、その後の維持管理・運営をPFI会社が行う)などがあります。
医療法第7条等で非営利の原則が明記されているため、病院運営の全部を株式会社であるPFI会社(SPC)と契約する事はできません。政令で企業等への委託が可能とされている「病院運営のコア部分(医師・看護師など一定の業務)を除く業務」について、自治体・病院側とPFI会社が契約することになります。
したがって、指定管理者(公設民営)制度とPFI事業との関係では、株式会社であるPFI会社(SPC)は、医療法上、指定管理者になれませんが、コア部分は医療法人等への指定管理、コア部分以外についてはPFI会社に委託するという形で、指定管理者とPFI会社が併存する可能性は考えられます。今後、病院運営に株式会社の参入が可能となれば、PFI会社が指定管理者となる危険があります。
また、地方独立行政法人は、一定期間(3〜5年)で事業そのものの改廃を含む見直しを前提とした制度であり、法人への長期貸付ができるのは自治体のみとなっていることなど、長期契約を前提とするPFI事業とは運営面では結びつきにくいと考えられます。
一般的には、地方公営企業法適用の病院が、PFI事業と結びつくと考えられます。この場合、全部適用は、一部適用と比べて予算・契約などの権限が大幅に病院長にゆだねられているため、PFI事業と結びつきやすく、現実に、高知医療センターや、現在検討中の京都市立病院も全部適用が前提となっています。一部適用のPFIとしては、八尾市民病院(運営PFI)があります。
財界・政府の狙いは、「官から民へ」と公共業務の民間化をいっそう促進するとともに、自治体が財政難のもとでも新たな大型公共事業を確保できるようにすることにあります。
病院運営に関して言えば、「委託の一括方式」ともいえるもので、低賃金・不安定雇用で業務の質が安定的に維持確保できるのか、長期の契約であるため医療情勢の変化に対応した住民要求や医療実態をふまえて柔軟に運営ができるのかなどの問題が指摘できます。自治体側にPFI会社と対等に交渉できる力量が確保できなければ、民間への丸投げとなり、業務の質の確保・点検など困難になります。病院運営の民間化に道を開くとともに、自治体病院運営への株式会社参入の条件作りにも繋がりかねません。
また、PFI会社が業務を受注する際の運営計画等が、患者数等の過大な見積もりを前提としたものであった場合、病院運営は財政面で重大な困難に直面します。医療情勢が激変しており、医療制度改悪の進行で、当初計画に大きな狂いが生じることも考えられます。もし、PFI会社が破綻した場合、運営会社の変更などで地域医療にも大きな影響がでますさらに、委託にともなう職員の雇用・労働条件の悪化・激変が想定されます。
病院建設の面から見れば、自治体の身の丈を超えた施設建設で、過大な借金を抱え、後年度負担が自治体財政をいっそう困難にすることも考えられます。新たなゼネコン型公共事業となって、地元企業の排除という問題も指摘されています。
全体として、危険な賭け・危険な実験とも言えるもので、全国自治体病院協議会も慎重姿勢をとっています。
? 自治体の財政運営・税金の使い道を、ゼネコン型・従来型の公共事業中心から、暮らし・福祉・教育優先に切り替えること、公共事業は生活密着型事業を中心にすること、事業計画は自治体の身の丈にあった計画とすること、財源は起債など低利の公的資金等を優先することなどを基本に、当局の提案の問題点を明らかにする。
? 導入が避けられない時は、上記(4)の問題点等を踏まえて、当局提案の具体的内容をチェックするとともに、それぞれの地域の状況や病院の役割など踏まえて、民主的な規制の要求を対置して取り組む。(例示)
(病院建設面)
(病院運営面)
(雇用・労働条件面)
? 自治体の地域医療に対する公的責任の縮小に反対し、地域医療の充実と住民と共に歩む病院づくり、健康で安心して住み続けることのできるまちづくり、安全・安心の医療と人間らしく働くことのできる職場づくりの取り組みを、職場での学習・要求結集、地域での共同行動をつよめながらすすめる。