(060801 京都自治労連・山本)
地方独立行政法人は、経営収支の独立性を強調し人件費の切り下げや住民サービスの低下をもたらすことが指摘されており、行政機関としての役割が弱められ、自治体の公的責任がいっそう縮小されることが指摘されています。
大阪府立5病院が今年4月から地方独立行政法人(公務員型)に移行されましたが、2005年度の累積債務60億円を「負の遺産」として法人に承継し、それを5年で「完全解消」するために検査や事務・給食等の縮小・委託化、賃金の大幅引き下げ等の計画が出されています。結局、病院職員のリストラを最大目的に独法移行したことは明らかです。また、静岡県立病院、東京都立病院では、非公務員型の地方独立行政法人への移行が検討されています。 (関連資料は別添参照)
(参考資料)・・自治労連・病院リストラ対策委員会
「自治体病院の地方独立行政法人化を考える」
自治労連討議資料「地方独立行政法人制度とどうたたかうか」
自治体研究社発行「Q&A自治体アウトソーシング」 など
試験研究機関・大学・保育所・病院等の業務を自治体直営から切り離して法人の運営とするために、地方自治体が50%以上出資して設立する法人で、経営面での「独立」をつよめるものです。自治体版「分社化リストラ」の手法ともいわれています。
設立の定義・目的では、「自治体が直接実施する必要がない業務で、民間に委ねては確実な実施ができない恐れのあるものを効率的に行わせるために設立する法人」とされています。病院等の業務を、「自治体が直接実施する必要がない業務」と規定しているところに狙いが現れています。設立は、自治体が判断し、議会の議決を経て定款を定めて、国・都道府県等の認可を受けます。設立される法人の業務に関する一切の権利・義務は当該法人が継承ということになって、自治体病院の場合も、独立行政法人への移行時に持っている借金を抱えたまま、ままそれを押しつけられて病院が出発するという形になります。
運営面では、「目標による管理と適正な業績評価、業績主義に基づく人事管理」が制度の制度の柱とされており、給与制度にも持ち込みます。
仕組みとしては、まず「中期目標」として、3年から5年の目標を設立団体である自治体の長が議会の議決を経て定めます。中期目標としては、住民のためにどういう医療サービスを提供するのか、財政的な運営をどうするのかということなどを定めることになりますが、主要には財政面での締めつけが強められます。
「中期目標」のもとに「中期計画」として、これも3年から5年の計画を定めます。これは法人が作成して設立団体の長が認可をします。病院のような公営企業法の適用組織は、この中期計画も議会の議決が必要となっています。「年度計画」は、法人が作成して設立団体の長への届け出だけになっており、議会の議決や審議はありません。
これは、独立行政法人制度のひとつの特徴ですが、議会の関与が弱まることによって、自治体の長や法人の長の独断的運営が強められる危険があります。住民からかけ離れて、住民の方を見ない、財政運営だけに終始をする運営になる危険も強まります。「地方公営企業法」の現在の制度の中では、単年度ごとに予算、決算が議会で審議をされて承認を受けますが、こうした議会や住民によるチェックができにくくなります。
また、「中期目標期間」終了時に、設立団体の長が法人の組織・業務運営全般にわたって組織の改廃を含めた見直しをすることになっています。経営的に採算第一主義の運営で徹底的に住民サービスを削ったりあるいは労働条件を改悪したりして、病院が経営的に成り立つようになってくれば、「何も自治体がやらなくてもいいじゃないか、民間も参入しやすくなる」ということで、民間移譲の条件が整うことになります。逆に運営がうまくいかなかったらできるだけ早目に廃止をしようという世論づくりがされることにつながります。
独立行政法人の財務及び会計は、企業会計が原則です。病院の場合はもともと公営企業法適用で企業会計原則ですが、独立行政法人への移行後、病院などの公営企業については、「事業の経費は当該事業の経営に伴う収入によって賄うことが原則」、要するに独立採算ということをわざわざ特例として規定をしています。
現在、病院については地方公営企業法で一般会計からの繰り入れ基準があり、それに基づいて繰り入れがされています。独立行政法人に移行後も、その繰入金相当分は「運営交付金と」いう名前に変えて同様の措置をすることに一応はなっています。しかし今までは、繰り入れ基準が不十分なため、不採算医療など住民のために必要な医療確保の観点から、多くの自治体で独自の判断で行政的に上乗せしています。今回、制度的には繰り入れ基準に準じて同様の措置がされますが、独立採算ということですから、自治体が独自の判断として繰り入れてきた部分は削られる危険があります。
役職員の身分の問題では、「業務停滞が住民の生活及び地域経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼす法人または中立性・公正性を特に確保する必要がある法人の役職員には地方公務員の身分を付与」ということで、一定の条件をつけて地方公務員の身分を付与する場合もあるということになっています。しかし、法律をつくる議論の中では、公営企業については全部非公務員でいくという意見が圧倒的でしたので、いったん公務員型となっても、流れとしては非公務員化の動きというのは非常に強まる危険があります。
法人設立時にその職場に所属する公務員というのは、別に辞令を出されない限り法人の職員になり、非公務員型の法人の場合は、公務員の身分も自動的に失うことになります。
公務員型の独立行政法人の場合でも、人事委員会の勧告などの対象外になりますし、「地方公営企業労働関係調整法」が適用され労使関係も変わってきます。地方公営企業の場合は、「給与は、生計費、同一又は類似の職種及び国及び地方公共団体の職員並びに」ということで、国や他の公共団体との均衡を見ていますが、独立行政法人では、この生計費というのはなくなって、「当該独立行政法人の業務実績及び中期計画の人件費の見積り」を考慮して決めるということになっています。非正規職員の雇用・労働条件の悪化の危険もあります。公務員型・非公務員型ともに、組織の強化・拡大とともに労働組合の組織移行の取り組みが重要です。
自治体病院の運営について、議会や住民の監視が弱まります。単年度ごとの予算・決算が議会で審議されるという仕組みではありませんので、自治体の首長とか理事者の独断的運営が一層ひどく、腐敗や汚職の温床になりかねません。
中期目標、中期計画の押しつけなど、採算第一主義の徹底で住民無視が一層ひどくなり、人員削減など医療事故と背中合わせの職場実態が一層深刻になる危険があります。
地域医療にとっては、もうかる医療にシフトするということで、不採算部門等の切り捨てや、今までとは違って一般行政とは切り離して別の法人ができるわけですから、保健・福祉・医療を一体にした町づくりがいっそう困難になる危険もあります。
患者さんにとっても、採算第一主義の運営で、差額ベッドをはじめ保険外負担の拡大や、診療報酬制度のもとで早期退院の強制などが一層強められ、病院がますます住民にとって遠い存在になる可能性があります。
地方公営企業法では、原則として公共性の原則と経済性の追求というのがうたわれていますが、独立行政法人法では、経済性の原則だけで、公共性の原則は消えています。
今の国の悪政のもとで、自治体こそが最後のとりでとなって住民に必要な医療を提供する役割が求められていますが、そうした自治体の公的責任を縮小するものです。
自治労連を中心とした運動の中で、「地方独立行政法人の設立に当たっては、地方公共自治体の自主的判断を十分尊重する」「地方独立行政法人への移行に際しては、雇用問題・労働条件について配慮をして、関係職員・団体または関係労働組合と十分な意思疎通が行われるよう必要な助言等を行う」ことなど明記されています。これらを活用して今後の取り組みを進めましょう。(なお、労働組合の取り組みの基本的な方向等は、指定管理者制度・地方公営企業の全部適用などの項と同様ですので、参照してください)