自治体病院の廃止・民間委譲や運営形態見直しの背景を考える

(060801 京都自治労連・山本)

(1)自治体病院をめぐる三重苦

いま、全国各地で、自治体病院の、「廃止・民間委譲」、「広域的な縮小・再編」、「指定管理者制度での公設民営化」、「地方独立行政法人化」、「地方公営企業法全部適用」などの動きが激化しています。自治体が、地域医療や住民の健康実態などを無視し、また、住民・患者・職員の声をまともに聞くこともなく、一方的に病院の動向を決定し、地域医療への責任を放棄・縮小する動きが一気に表面化してきています。

こうした事態を生み出している主な要因として、「医療制度改悪」「自治体構造改革」「医師確保困難」の三つのことが考えられます。

(2)「医療構造改革」での病床削減と、公的病院も「官から民へ」

一つは、「官から民へ」「国から地方へ」のかけ声のもと、小泉改革で進められている「医療構造改革」です。
政府・財界は、医療に対する国の予算を削減し医療で利潤追求ができるようにするために、医療保険制度の改悪のみならず医療提供体制の改悪として、病院経営への株式会社参入の解禁などとともに、病院・病床数を大規模に減らす政策をすすめてきています。

2001年に小泉内閣は、いわゆる「骨太の方針(第1弾)」で、医療構造改革メニューとして、「医療費総額の伸びの抑制」「医療サービス効率化プログラムの推進」などを打ち出しましたが、この中に「病床数の削減を図る」ことを明記しています。そして、その政策の主要な柱の一つに、国立病院・社会保険病院・自治体病院などの公的病院の縮小・統廃合・民営化等を位置づけました。

これを具体化するため、2002年11月には、自民党の医療基本問題調査会の「公的病院等のあり方に関する小委員会」が、「公的病院等についても、民間にできることは民間に」の考え方に沿ってあり方をみなおす「報告」をだしました。その後、政府は関係省庁連絡会議を立ち上げるなど、廃止・民間移譲・民営化等を具体化にすすめてきています。 

(3)「自治体の構造改革」で、自治体病院の廃止・縮小・民営化

二つ目は、「自治体構造改革」です。この間、政府は、「自治体の民間化」で自治体の役割や中身を変える動きを強め、地方独立行政法人制度や指定管理者制度はじめ自治体リストラの様々なツールを制度化してきました。

すでに総務省は、2004年4月、自治体に対して「地方公営企業の経営の総点検について」の通知を出し、病院をはじめとする地方公営企業について、その必要性の是非からの見直しと、業務の廃止・民間移譲・民営化などを推進するよう指示していましたが、昨年3月に発表した「新地方行革指針」の中では、PFI方式や地方独立行政法人制度・指定管理者制度など、新たなリストラのツールの活用を含めて、いっそうの具体化を自治体に迫ってきています。

こうしたもと、市町村合併の押しつけや、「三位一体改革」による財政面からの締めつけなどと相まって、地域の実態を無視して、自治体が病院運営の責任を縮小・放棄する状況が作り出されてきています。

(4)「医師確保の困難」が、病院の縮小・再編に拍車

三つ目は、医師確保の問題です。1980年代の後半から政府は、誤った「医師過剰論」に基づいて医師養成の抑制政策をとってきており、医師の過酷な勤務条件、地域偏在、産婦人科・小児科・麻酔科の医師不足など、積年の課題について、公的責任での解決が放置されてきました。こうしたもとで国際的に見ても、100床当たりの日本の医師の数は、アメリカの五分の一、ドイツの三分の一などで、きわめて少なくなっています。

そして2004年度から始まった「医師の臨床研修の必修化」のもと、大学医学部や医科大学での「医師不足現象」が発生して、大学から地域に派遣している医師の引き上げ等がはじまりました。医局からの派遣に依存している自治体病院をはじめ多くの病院で、医師確保の困難に拍車がかかり、全国的にもこのことが、自治体病院の再編・民営化等を促進する要因になってきています。
「臨床研修の必修化」は、研修医の処遇と研修内容の改善など、懸案の課題の解決に向けての重要な一歩ですが、それに伴う条件整備がおこなわれてこなかったことに主な問題があります。

(5)自治体病院を柱にした「健康で安心して暮らせる町づくり」を

自治体当局は、自治体病院を「健康で安心して住み続けられる町づくりの柱」として位置づけるとともに、民間医療機関等とも連携し、地域住民の健康実態や医療ニーズなどを踏まえて、保健・福祉・医療を一体的にとらえた行政運営をすすめてゆく必要があります。

そのもとで自治体病院は、?地域に欠けている医療を確保する(不採算医療、欠けている診療科、救急医療等)、?規範的医療を推進する(安全安心の医療、患者さん・住民の権利保障、高度・先進医療等)、?保健・福祉・医療を一体とした自治体行政を推進する(民間医療機関や福祉施設などと連携して)などの役割があります。

そして、自治体や病院当局は、医療情勢等の激変や住民の健康実態・医療ニーズに機敏に対応して病院を充実・発展・進化させるとともに、住民・職員の英知を結集した病院運営で住民とともに歩む病院づくりを進めることが求められています。