Q&A 自治体病院の指定管理者制度について
(2006/08/01 京都自治労連・山本)
指定管理者制度は、公共施設の管理や運営を民間企業等に丸投げする制度で、単なる業務の委託ではなく一定の権限を与えて施設の維持・管理を行うものです。病院については医療法の規定により営利を目的とする者は指定管理者にはなれませんが、医療法人等については指定管理者となることが可能です。
この間、横浜市新港湾病院で導入されて以降、福岡県立精神医療センター大宰府病院、京都・国保大江病院、川崎市立多摩病院などで導入され、今後導入を検討している病院も多くあります。
病院の管理・運営の業務を民間に委ねるため、自治体責任の縮小で、病院の公的な役割の低下や、住民参加・議会のチェック・自治体として保健・福祉・医療一体の町づくりなどが困難になる危険があります。また、移行に際して、病院職員の賃金大幅カットや「分限免職」処分など、雇用・労働条件の激変の問題も発生しています。 (関連資料は別添参照)
(参考資料)・・・自治労連討議資料「指定管理制度とどうたたかうか」、自治体研究社発行「Q&A自治体アウトソーシング」など)
(1)「指定管理者」制度とはどんなことでしょうか。
指定管理者制度は、自治体の設置する病院・保育所・スポーツ施設などの公共施設(以下、公の施設)の維持・管理・運営を民間企業や団体に委ねる制度で、新たな「公設民営」の方式ともいえるものです。ねらいは、「官から民へ」と、自治体業務の営利化・民間化を一層加速させようとするもので、自治体構造改革の一環です。
2003年の地方自治法改定により制度化されたもので、従来の「公設民営」は「管理委託制度」と呼ばれていましたがこれが廃止され、自治体の設置する「公設民営」の施設は、指定管理者による「管理代行」と言われる方式に変更されました。自治体から指定されて業務を行う企業や団体等は、「指定管理者」と呼ばれます。「公の施設」の運営を、自治体「直営」で行うのか、指定管理者制度での「公設民営」で行うのかの選択は、自治体が判断し、議会で議決します。
(2)指定管理者制度の問題点はどんなことでしょうか。
? 従来の「公設民営」との違いは、公の施設の維持・管理・運営に、営利を目的とする株式会社等の参入が可能となり、公の施設で利潤追求できるようになったことです。いままでは、業務の公共性から、公共的団体とか自治体が50%以上出資する法人等に委託することになっていましたが、この制限なくしました。(ただし、NPO法人等も参入可)
? 自治体の公的な責任が大幅に縮小し、施設の利用許可や料金設定を条例などの範囲内で、指定管理者にゆだねることができるなど、利潤追求の自由度が高まります。また、自治体が認めれば、公の施設で指定管理者が独自の収益事業を行うも可能になります。こうしたことを口実に、自治体が、従来の委託料(制度改定後は指定管理料)を、大幅に削減する危険があります。 さらに、住民・議会のチェックが後退し住民参加が困難になったり、公の施設に従事している職員の雇用と労働条件で重大な問題が発生する危険があります。
(3)自治体病院では、どうなるのでしょうか。
? 自治体病院も制度の対象となりますが、医療法(第7条等で非営利の原則)が優先するので、現状では自治体病院運営の指定管理者に、株式会社が参入することはできません。今後、医療法の改悪やいわゆる「特区」などによって参入の危険もありますが、当面は、従来の「公設民営」と同様に、医療法人・大学・公的病院などが、指定管理者の対象となります。病院の開設者は従来どおり自治体です。
? 病院の廃止や民間委譲などのように、自治体が病院運営から全面的に「撤退」するものではありませんが、管理・運営の業務を民間に委ねるため、自治体の責任の縮小で、病院の公的な役割の低下や、病院運営のノウハウが自治体に蓄積されない危険があります。 こうしたことから、医療情勢の変化や住民要求に機敏に対応した病院運営が困難になったり、住民参加・議会チェックや、自治体として保健・福祉・医療一体の町づくりが困難になる危険があります。
? 指定管理料(従来の委託料にあたるもの)がない場合や、あっても低く抑えられ、不採算部門の切り捨てなど医療水準の低下や、差額ベッドなど患者さんの保険外負担の増加の危険があります。指定管理者が、一定の収益事業をおこなうことも可能で、この面からも、住民や患者さんの負担増につながらないか危惧されます。
? 直営施設から公設民営への移行に伴って、職員の分限免職による解雇や、再雇用となっても労働条件の大幅な切り下げの危険があります。さらに、劣悪な労働条件のもと、不安定雇用が拡大し、業務の不安定化・業務の専門性・継続性が安定的に確保できないおそれがあります。
(4) 労働組合としてはどのように取り組んだらよいでしょうか。
自治体の地域医療に対する公的責任の縮小に反対し、地域医療の充実と住民と共に歩む病院づくり、健康で安心して住み続けることのできるまちづくり、安全・安心の医療と人間らしく働くことのできる職場づくりの取り組みをすすめることを基本に、下記の方向での取り組みが重要です。
? 「直営病院」から「公設民営」への移行については、地域医療の後退、患者負担増、雇用・労働条件の切り下げなどの危険があります。当該自治体病院が果たしている地域での役割、直営でこそ果たせる役割などから見て、「公設民営」化で想定される具体的問題点を住民的に明らかにしてゆく。
? 同時に、それぞれの地域医療の状況などをふまえて、自治体病院の役割や充実の課題を明らかにするとともに、住民・労働者の立場からの自治体病院改革の運動を強化し、地域での住民共同の取組みを強化する。
? 赤字攻撃と闘う視点から、病院財政の分析を系統的にすすめると共に、財政困難の打開に向けての闘い(繰り入れ基準の改善、医療改悪・診療報酬改悪に反対する等)を強化し、住民本位の民主的効率的な財政運営の確立めざす
? 「公設民営」への移行が不可避となった時点では、民営化後も、医療水準の確保・充実と雇用・労働条件の維持・改善へ、自治体が公的な責任を果たすことを要求し、「指定管理協定」に反映させる事をめざして取り組む。雇用については、「地方公務員の公益法人等への派遣法の活用」などの選択肢の確保をはじめ、臨時・非常勤職員を含む全員の雇用確保をめざす。
? 同時に、単組・地方組織などと協議し、民営後の病院での組合結成や、労働組合の組織移行、民営化時点での労働協約の締結などの対策をすすめる。
(5)具体的にはどのような事例がありますか。
? 舞鶴市民病院
06年1月中旬、突然、06年4月からの「病院機能の大幅縮小・民営化」の方針を発表
(脳外科の他病院への移管、外来を縮小、24時間救急の廃止、病床は縮小し療養病床とリハビリ病床を中心に運営。口実は「医師確保の困難」など)。しかも、公募もなしで、指定管理の予定法人まで発表。法人先にありき。しかし、2月になって予定していた医療法人から「辞退申し出」。当局は「当面、直営で運営し年度途中に民営化」に方針を軌道修正。しかし、医師確保の見通しがたたず休止に近い状態。地域の救急医療体制がピンチに。
? 横浜市港湾病院
横浜市の場合、医業収益が目標を下回った場合でも、指定管理者に減価償却相当額を負担させ、目標を上回った場合、その90%は指定管理者が、10%は市が受け取るなど、採算第一の運営になる危険性。しかも、指定管理者となった日赤は、地元の横浜赤十字病院を閉院・移転することに。市立病院と日赤病院の事実上の統合再編ともいえる内容に。
? 大江病院の事例
「福知山市への吸収合併」問題が主な要因。町は「病院機能の維持・充実には民営化しかない」と、町が医療法人を立ちあげ指定管理に。合併に伴うリコール運動で町長選挙。選挙の結果、民営化が不可避に。職員は、一旦全員解雇し、法人への再雇用。しかし労働条件は賃金の大幅ダウン等で人材確保の困難も。町は民営化時に相当程度の財政補助を行い、民営化後の新病院の医療機能は一定充実。しかし、地方公営企業法適用外を選択。今後、医療制度の改悪の影響や、合併後の「公」の主体の福知山市の動向で運営困難の危険も。
? 精華病院の事例について
2002年、当局は財政困難を口実に、病院の廃止と民間病院の誘致を打ち出す。「病院 問題考える会」など住民運動の開始。病院で組合員4倍に。当局方針の矛盾で一旦、計画は頓挫。その後、当局は「誘致の条件整わない」「医師確保の困難」を口実に、「当面、現状の機能を維持・充実するには、公設民営しかない。」と軌道修正。同時に、職員は一旦解雇・法人に再雇用を表明。廃止・民間誘致までの「つなぎ」としての「公設民営」方針で、自治体の病院運営から撤退という基本は変わらない。民営化に伴い相当程度の財政投入の見込み。
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