機関紙 - 共謀罪 すべての国民が監視対象 権力者が好き放題できる国 〜そんな国にあなたは住みたいですか!〜 京都南法律事務所 毛利崇弁護士に聞く
政府がテロ等準備罪と呼び名を変えて、今国会に提出を狙う「共謀罪」は、2人以上で話した内容が犯罪を計画したと見なせば、話し合い自体を処罰できるというもの。テロと関係なくても、権力にとって都合の悪い人物や組織に圧力をかけることができ、すべての人々を警察の監視対象とする恐ろしい法律です。法律の内容や、労働組合にとっての影響などを、自由法曹団京都支部の毛利崇弁護士にお聞きしました。
1.権力に都合の悪い人・組織に圧力
――共謀罪とはどんな法律ですか?
共謀罪とは、「犯罪行為(例えば殺人、窃盗、詐欺など)について、2人以上の人が話し合って合意をする」という犯罪です。通常の犯罪と大きく異なるのは、犯罪の結果や結果発生の具体的危険性が生じていないのに処罰が可能となる点です。
例えば、「他人の物を盗む」という犯罪である窃盗罪について説明をしてみましょう。2人以上の人が共同して窃盗に至るには、様々な段階があります。
?ある人のお金を盗もうと心の中で思う→?2人以上の人が?について相談する→??について合意する→??を実行するために必要な道具を準備する→?ある人のお金を盗む為の行為をする(例えばカバンの中をさぐる)→?実際にお金を盗む
現代の刑法の基本原則は「犯罪の結果が発生した場合(既遂)のみ処罰する」というものです。上の例でいえば?だけを処罰するのが原則的な考え方なのです。
例外として「結果が発生するような行為をしたが結果が発生しなかった場合(未遂)も処罰する」というものがあります。上の例で言うと?までは至ったけれどもカバンの中にお金が入っていなかったので盗むことが出来なかった(?には至らなかった)という場合です。
さらなる例外として「結果を発生させるための準備をする行為(準備、予備)も処罰する」というものがあります。上の例で言うと?まではしたけれども結局カバンを探ることはしなかったという場合です。これは法律的には「予備罪」や「準備罪」と言います。
そして、極めて特別な例外として「犯罪行為をすることを合意した場合(陰謀、共謀)も処罰する」(?までしかしていなくても処罰する)というものがあり、これが共謀罪なのです。
現在の日本の法律においては、結果が発生してしまっては取り返しの付かない重大な被害が発生する犯罪について、ごく例外的に陰謀罪または共謀罪が23、予備罪または準備罪が49存在しています。
しかし、政府が作ろうとしている共謀罪法は、600を超える犯罪(300や150と主張する方もいますがいずれにしても多数の犯罪)について、合意をしただけで処罰を可能とする法律なのです。
共謀罪の問題点は多岐にわたりますが、最大の問題点は、「共謀罪法があるのをいいことに、本来処罰の必要性がない場合について、警察などの捜査機関が権力者にとって都合の悪い人や組織に圧力をかけるために濫用される危険性が高い」ということです。
2.いくらでも範囲広げ労働組合の弱体化ねらう
――労働組合にとってどんな影響が考えられますか?
例えば、ある労働組合が「戦争法廃止」「脱原発」という方針を掲げて全国的に活発な活動をしていたとします。これ自体は犯罪行為ではありませんので、仮にこの活動が時の政権を担っている人たちにとって都合の悪い活動であったとしても、警察がその活動理由に労働組合の幹部を逮捕したり、組合事務所に捜査に入ったりすることはできません。
ところが、この労働組合が、賃金増額の団体交渉のあり方について、会議で「今日の団交は使用者側から納得いく回答が得られるまで徹底的に追及しよう」と合意をしたとします。この合意には「納得いく回答が得られるまで団交に参加した使用者側の人間を帰さない」という合意が含まれているようにも見えます。そうすると、この合意は監禁罪を犯すことを合意したということになり、合意したことが共謀罪にあたるということになります。もちろん、結果として監禁にあたるような行為がなされれば、犯罪になるのはやむを得ないのですが、共謀罪法が出来れば結果として監禁に当たるような行為がなされなくても、合意をした時点で犯罪になるので、捜査機関は逮捕したり組合事務所を捜査することが可能になるのです。
政権を担っている人たちが、自分たちの政策に反する活動を活発にしている労働組合を弱体化させる為に、本来は処罰をしなくてもいいこのような共謀を口実にして、組合幹部を逮捕したり、組合事務所に捜査に入って組合活動に必要なパソコンや書類などを証拠として差し押さえるということが可能になるのです。
政府は「組織的犯罪集団」に主体を限定しているから問題ないと言いますが、「組織的犯罪集団」とは何かが明らかでないので、解釈によっていくらでもその範囲が広げられる可能性があります。そんな無茶なことを権力者はしないだろうと思う方もいるかも知れません。しかし、世界の歴史、そして日本の歴史を振り返ってみると、むしろ権力者は法律を自分のいいように解釈して、自分に都合の悪い人たちを排斥してきたのです。それと同じ事が将来起こらない保証はどこにもありません。
3.誰も権力者に反対できなくなる
――菅官房長官などは「一般の人には全く関係ない」「何も悪いことしていなければ、心配することない」などと言いますが、どう考えたらいいのでしょうか?
確かに、共謀罪は、現段階では、「一般の人には関係ない」かもしれません。しかし、将来にわたって関係がないと言えるのかは疑問です。
重要なことは、権力者に都合のいい道具を与えてしまうと、権力者はその道具を自分の都合のいいように使おうとするということです。
多くの人は、自分が権力者と対峙することなどないと思っているかも知れません。しかし、原発反対のデモに参加している人の多くは、福島原発事故が起こる以前には、自分が街頭でデモをして国の政策に公然と反対する活動をするなどと思っていなかったのではないでしょうか。戦争法反対の活動に参加をしている方の中にも、あのようなとんでもない法案が出てくる以前には、自分が政治的な課題について実際に声を上げるなどと言うことを想像もしていなかった方が少なからずいるのではないでしょうか。いつ何時、自分が権力者と対峙する立場になるかわからないのです。
権力者がおかしなことをしていると声を上げることは、国がおかしな方向に進んでいかないために重要な事です。そのような活動が制約されると、声を上げる人が次々といなくなり、最終的には、誰も権力者のやることに反対出来なくなります。共謀罪は、その制約の道具として使われる危険性が非常に高い点が問題なのです。
世の中を良くしようと様々な活動をしている人たちが「悪いことをした」と言いがかりをつけられて犯罪者にされてしまうと、世の中全体が生きづらく窮屈なものになってしまいます。そのような危険性のある法律を「一般の人には全く関係ない」「何も悪いことしていなければ、心配することない」と言ってしまうのは誤りだと思います。
4.共謀罪はテロ抑止とは関係ない
――共謀罪反対運動で重要なことは何でしょうか?
「あなたが逮捕されるか否かが重要なのではない。共謀罪は権力者の暴挙に対抗しようとする人たちを排除する為に濫用される危険性が高い。権力者のやる暴挙に対抗しようとする人がいなくなると、権力者が好き放題できる国になってしまう。そんな国にあなたは住みたいですか」という理屈を理解してもらえるような反対運動が必要だと思います。
また、共謀罪とテロ抑止とは関係が無いということも理解をしてもらう必要があります。条約批准のためには共謀罪の制定が必要だというのが政府の説明ですが、日本弁護士連合会などは、共謀罪がなくても条約の批准は可能だと解説しています。
「自分には関係ない」と思っている人たちは、「自分は組織的犯罪集団とは関係がない」「自分は政治的なことに関心がないから関係がない」「危険だといっている人たちが言っていることは極論であってそんなことは起こらないから関係ない」など、色々な理由で関係がないと思っているのだと思います。このような考え方に対して「いや関係する可能性があるんだよ」と説明をすることが大切ですし、また「共謀罪などなくてもテロの防止や組織的犯罪の防止はできるんだよ」ということを理解してもらうことが重要だと思います。
京都自治労連 第1890号(2017年2月20日発行)より