機関紙 - 自民党改憲素案の危険(下) 内閣に権限集中で市民の人権は制限
「緊急事態条項」の持つ意味 〜毛利崇弁護士に聞く(京都自治労連顧問弁護士)〜
前号(第1917号)に続き、毛利崇弁護士に自民党改憲素案の危険性について語っていただきました。今回は、大災害などを理由に安倍政権が導入しようとする「緊急事態条項」の問題点です。
有害です―「緊急事態条項」
自民党は、改憲4項目の素案をまとめ、2018年3月25日の党大会において「改憲の実現を目指す」とした運動方針案を採択しました。この改憲4項目は、「9条改正」「緊急事態条項」「『合区』解消」「教育の充実」を内容とするものですが、本稿では「緊急事態条項」の問題点について指摘します。
「緊急事態条項」に関する自民党の素案は、大地震等の大規模かつ異常な災害の際、?国会の議決を待ついとまがないときは、内閣が必要な政令を制定できる、?選挙の実施が困難な時は議員の任期が延長できる―という内容です。
東日本大震災や熊本地震をはじめとして、日本では、大規模な地震が相次いでおり、それに備えて制度を作ることは必要と思われるかもしれません。しかし、このような「緊急事態条項」を憲法にもうける必要はありませんし、むしろ有害とすら言えます。
独裁を招く危険性を有す
第一に、?にいう必要な政令を定める権限は、既に、災害対策基本法で内閣に与えられています。従って、わざわざ憲法に書き込む必要はないのです。自民党が法律で既に定められていることを、憲法を変えて書き込もうとする目的は、将来、この緊急事態条項を災害だけでなく、他の場合にも拡大する意図があるからだと考えられます。実際、自民党が掲げている改憲草案では「その他法律で定める緊急事態において」との記載があり、災害に限らない広範な事態において内閣に権限を与える内容になっています。
第二に、緊急事態条項が憲法に書き込まれると、他の憲法に定められている条項と同じレベルで扱われることになります。現状の災害対策基本法は、法律ですので、例えば憲法に定められた人権条項の方が優先されます。しかし、緊急事態条項が憲法の定めになると、人権条項と緊急事態条項がぶつかったときに、当然に人権条項が優先するという話にはなりません。緊急事態条項が、市民の基本的人権を不当に制約するために使われる可能性があるのです。
災害対策のための仕組みは法律で定めればよく、憲法に書き込む必要はありません。自民党が作ろうとしている緊急事態条項は、内閣に権限を集中し、市民の基本的人権を不当に制限し、将来独裁を招く危険性を有しています。そのような不必要かつ有害な改憲を、許すわけにはいきません。
自民党改憲草案(2012)
「緊急事態条項」の問題点
●国会の事前同意がなくても
「緊急事態」を宣言できる
●基本的人権が制限される
●内閣が法律と同じ効果を持つ政令を制定できる
●総理大臣が予算措置を行える
●内閣は衆議院の任期を延長することができる
=選挙を通じて総理大臣を変えることができない
●地方自治体も国のいいなりになる
●司法も行政に遠慮せざるを得ない状態になる
●集会・結社・言論・報道の自由が制限される
※災害に限らず内閣に権限を集中し独裁を招く危険!
京都自治労連 第1918号(2018年4月20日発行)より