機関紙 - TPP参加は、日本社会に計り知れない打撃 〜農民組合 京都府連合会 書記長 安田政教さんに聞く〜
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加問題が日本全国で大きな問題となっています。しかし、その内容や問題点、京都に与える影響などについてあまり知られていません。そこで、農民組合京都府連合会書記長の安田政教さんにTPPの問題点について語っていただきました。
根底に米の輸出倍増戦略
菅首相は10月1日、臨時国会冒頭の所信表明演説でTPPへの参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築をめざすことを表明しました。急に出てきた印象ですが、WTOやFTA交渉が難航する中で、アメリカの輸出倍増戦略と日本の大企業の思惑が根底にあります。
TPPとは、農林水産物を含め、すべての品目の関税撤廃を原則とする「高度な」自由貿易協定。現在9カ国が交渉を進めています。特にアメリカは、有力な市場確保策として来年11月のAPECまでの交渉妥結をめざしています。この協定に加わることになれば、日本の多方面に深刻な影響が出てくることは、政府自身の試算などでも明らかです。
雇用・国民経済に大影響
農林水産省の試算によれば、わが国の食料自給率は現在の40%から14%に急落し、米の生産も90%減、砂糖原料や小麦などの生産はほぼ壊滅します。世界で食料危機の解決が待ったなしという状況のもとで、日本がさらに食料を輸入に依存することは許されません。また、食料・農業・農村基本法に基づき、「自給率を2020年までに50%に引き上げる」という政府が掲げた基本計画にも反するものです。
影響は農業にとどまりません。農水省の試算でも関連産業を含めて340万人もの雇用が失われます。これは経済産業省が試算したTPPに参加しない場合に想定される雇用減81万人をはるかに超えるものです。また、地域経済への打撃は破壊的で、北海道庁の試算では2兆1千億円(京都府は未公開)にも上ります。
TPP参加は、雇用や国民経済そのものに大きな影響を及ぼすことになります。すでにアメリカが郵政事業民営化の徹底や金融規制緩和を求めています。また、経団連米倉会長は「日本に忠誠を誓うものなら外国人労働者をおおいに受け入れる」とまで発言しています。TPPへの参加は、一部大企業・財界の強い要望に応えて、日本の農林漁業や地域経済の存在を危機に追いやるものであり、各地で反対の声が広がっているのは当然です。
農家にとどめを刺す
いま、深刻な事態が進行しています。米価の暴落で農機具の返済ができない、来年の肥料が買えない、子どもへの仕送りができないなど悲鳴が上がっています。借りている田んぼを返す農家や農業そのものをやめる農家も続出しています。これまでなんとかがんばってきたが、大幅な赤字を出してまで農業は続けられないからです。イノシシ、シカ、クマによる農作物被害がさらに拍車をかけています。さらなる農産物の輸入自由化は、4割の自給率を支える農家のとどめを刺しかねません。
まさに地方自治破壊
農家の離農は農村の崩壊に直結します。自治会や農家組合などの自治組織は農業を軸に運営されています。私の地域でも年間30日をこえる共同作業は農業にかかわるものが大半です。共同の力で地域の環境が守られ、地域の絆も受け継がれてきました。国営農地を中心に法人・企業の農業参入が相次いでいます。効率第一の企業が地域の絆や伝統を受け継ぐ保証はありません。
TPPへの参加は、地域と日本の将来を危うくするまさに地方自治破壊そのものであり、絶対に認めることはできません。農民連も食健連などとも共同して京都府下すべての自治体で12月議会にTPP参加反対の請願・陳情を提出しようと取り組んでいます。運動は急速に広がりつつあります。自治体労働組合のみなさんとも力をあわせ、「地方自治を守り、国のあり方を変える」取り組みとして全力をあげる決意です。共に頑張りましょう。
京都自治労連 第1741号(2010年12月5日発行)より