機関紙 - 水産 地域の"宝"は豊かな海と水産業…美味しいよ「舞鶴のさかな」住民と一緒に水産業の振興
舞鶴市は、豊かな漁場に恵まれた漁業の街。魚介類を活かした水産業は舞鶴市の地域経済を支える基幹産業。水産業が賑わえば街に活気が出ます。近年、漁獲量の減少や就業人口の減少など、厳しい状況にあります。このような中で、同市水産課の皆さんは、市民と力を合わせて水産業の発展、元気な街づくりに取り組んでいます。長年その事業に関わってこられた水産技術技師のAさんにお話を伺いました。
京都北部の魚の流通拠点
Aさんによると、舞鶴の漁業は、魚の通り道に仕掛ける定置網漁業、カニ漁をはじめとする底引き網漁業、岩がきやトリガイなどの養殖漁業、アマダイやタイをとる釣り漁業など大きく分けて7つの漁業がおこなわれています。
とりわけ、起伏にとんだ沿岸を生かして仕掛けられている定置網は、10基にも及び、漁場が近く天候にあまり左右されないこともあり、漁獲量の一番多い漁法となっています。その大きさは、体育館やグラウンドがスッポリ入る巨大なもので、設置費用は数億円になります。
また、舞鶴地方卸売市場は、舞鶴だけでなく京都の日本海で取れた魚介類の8割が取引される一大流通拠点です。
水産課の役割
水産課の仕事として、「魚の街まいづる」と「舞鶴のさかな」のPR、「地産地消の推進」「お魚授業の実施」「漁港、漁場や海岸の整備と維持管理」「漁業後継者の確保」などの事業を行っています。
特にAさんは、「漁獲量が減少しているもとで、“魚の付加価値”を上げることが重要」「“神経締め”等ひと手間掛ければ、魚一匹の値段は全然違う」と強調します。どうすれば、魚をブランド化でき、その結果、高く売れるかについて、漁師や魚屋さんと試行錯誤を重ねています。
東京で"京鰆"が大ヒット
鰆が、若狭湾で取れるようになったのは、15年ほど前から。それまでは、全くなじみのない魚でした。この間、付加価値向上のため、京都の漁師が船上から市場まで鮮度保持に力を入れ、東京(築地市場から豊洲市場)への出荷を探っていました。3年前、京都府漁協が“京鰆”と銘打って出荷したところ、これが大ヒット。今では、冬の舞鶴を代表するブランド魚に成長して稼ぎ頭となっています。
鰆は、京都の料理では「西京漬け」は、定番の味ですが、産地ならではの「炙り」や「刺身」を提供する店舗を増やすことで、冬の舞鶴かにと併せて京鰆を楽しみに観光客も増えてきています。
子どもの笑顔輝くお魚授業
「今一番やりがいを感じる取り組み」と笑顔で紹介されたのが、市内に18校ある小学校に出かけての「お魚授業」です。子どもたちに、舞鶴の魚に興味を持ってもらい、漁の方法や美味しい魚のことを知ってもらうことが、地元での消費を増やすことにつながります。
「どんな魚が取れるのか、定置網の大きさや、魚がどのように網に入るのか」などの話に、子どもたちが目を輝かせます。また、この授業の後、漁協が行っている市場の見学会では、マイナス18度の冷凍庫体験も取り入れ大好評とのこと。
さらに、地元、魚介類を給食に出す地産地消とともに、年に一・二回、鰆やブリなど本物の高級魚を味わってもらう取り組みは、10年続きました。これは、「地元の子どもが魚を食べない」という問題意識が出発で、給食担当の先生の研修会に出かけて話をし、実現したとAさんは当時を振り返ります。
住民の皆さん、現場がエネルギー源
「一般社団法人舞鶴市水産協会の事務局も水産課が預かっており、マーケティングなど中々行政だけではできないことを、水産関係団体と意見を出し合って、事業をすすめられることが、舞鶴市の素晴らしいところ」とAさんは言います。
新しく開拓したい分野として、「京都市の人に、舞鶴の美味しい魚を食べてもらいたい。舞鶴に来て食べてもらうことはもちろんだが、京都市内へ舞鶴の朝獲れの新鮮な魚を出荷する仕組みが今はない。東京へのブランド戦略はあるが、近くの京都市民にもっと食べてほしい」と力が入ります。
Aさんに元気の源をたずねると「住民の皆さん、生産の現場があるから」ととびっきりの笑顔で答えていただきました。
間もなく、Aさんが手に持っている「育成岩がき」の出荷シーズンを迎えます。もし、新型コロナ対策で大都市の消費地市場が閉鎖されれば、産地・舞鶴の水産物の行き場がなくなります。政府のしっかりした補償が必要です。
新漁業法のもとで水産業を守るヒント
2018年12月、政府は、漁業法の全面改定を強行しました。新漁業法は公布から2年以内に施行なので、今年中には漁業制度が大きく改変します。旧漁業法は、原則として地元漁業者が漁場を優先的に利用する権利を持つ内容でした。
しかし新漁業法は、この内容を「優先順位」も含めて廃止し、外部の企業が定置網漁業権・区画漁業権を申請した場合には、知事の裁量で企業を優遇出来る内容です。
外部企業では、利益が優先され、労働者は派遣や外国人労働者、獲れた魚介類は市場を通さず直接スーパーへなど。ここには「持続可能な地域づくり」の考えはありません。新法のもとでも水産業と暮らしを守るヒントが、今回紹介した舞鶴の取り組みにあるのではないでしょうか。
京都自治労連 第1961号(2020年4月5日発行)より