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機関紙 - あの人に会いたい8 佛教大学社会福祉学部教授 岡崎 祐司さん コロナ禍で求められる公衆衛生行政

あの人に会いたい8 佛教大学社会福祉学部教授 岡崎 祐司さん コロナ禍で求められる公衆衛生行政

カテゴリ : 
組合活動
 2020/10/7 14:00

おかさき・ゆうじ=
佛教大学教授/1962年京都市生まれ/佛教大学社会科学研究科博士後期課程満期退学/佛教大学社会学部専任講師、助教授を経て現職/2018年より福祉国家構想研究会副代表

最近の著書
「安倍医療改革と皆保険体制の解体」(大月書店)
「老後不安社会からの転換―介護保険から高齢者ケア保障へ」(大月書店) 他


保健所の「集約化」をやめ保健師増員など体制拡充を

政府による新自由主義的政策により、日本の公衆衛生行政や医療は大きく削減され、新型コロナ感染症拡大の中で、その脆弱性が明らかとなりました。「あの人に会いたい」今回は、佛教大学教授の岡崎祐司さんを訪ねて、社会福祉の観点から、公衆衛生行政の問題点についてお話を伺いました。

――政府の新型コロナ対策をどのように見ておられますか

岡崎 これまでの経過をみると、今の政権は「国民の困難に対する関心がすごく薄い」といえます。

新型コロナ感染が広がって、国民生活や地域にどんな困難がもたらされ地域が疲弊するのか、あるいは、行政の現場がどれだけ大変になるか基本的な想像力とか関心がもはやそこにはない。政権及び高級官僚の彼らに関心があるのは、経済成長率や株価、グローバル大企業にとっての必要な日本づくりしか関心がない。こうした姿勢が、新型コロナ対策にも現れているのではないでしょうか。

――公衆衛生行政・保健所の疲弊が大きな問題と指摘されていますね

岡崎 新型コロナ感染問題では、次の感染拡大の波、インフルエンザ流行とコロナ感染拡大が同時に来るのではないかと心配が広がっています。それにどう備えるかという点で、「医療崩壊の危機」について広く指摘されていますが、合わせて、公衆衛生行政・保健所や地域衛生研究所の疲弊にも目を向けることが必要です。

この20数年間、強行されてきた新自由主義改革で、医療や社会保障、社会福祉は大幅に削減され、保健所も大きく削られました。

保健所の数は、全国で852ヶ所(1992年)から、469ヶ所(2020年)に激減しています。京都では、府の保健所が12ヶ所から7ヶ所1支所へ、京都市は11保健所が1ヶ所に。住民にとって保健所は、身近な存在ではなくなりました。

――保健所の現場がどのようになっていますか

岡崎 保健所は過酷な状況に置かれています。NHKのある番組では、東京都内の保健所を取材。一日300件の電話が朝から鳴りっぱなし、1本の電話に30分以上の対応が普通。

PCR検査では、保健師・医師のペアで該当者を検査機関へ運搬するが、一回一回防護服を着用し、周囲の視線もあり夜間に赴くことも。感染者の入院調整や行動履歴の確認・濃厚接触者の特定・健康観察(朝晩2回)・夜間の相談対応など。記者は、同時多発の業務を10人強でこなしていることに驚き、「職員の誰かが倒れたら、もう終わり」という現場の声を紹介しています。

京都新聞は、京都市の保健所を取材。「遅くとも22時には退庁しましょう」と掲示されているが、3月・4月の残業が200時間強の職員がいる。多くの職員は終電が間に合う時間に仕事が終わった日はなく、休みは子どもの卒業式だけ、4月中旬に職員体制は倍以上になったが、精神的に参ってしまい廊下で涙を流す職員もいた、と報道しています。

――政府の保健所対策をどう見ればいいのでしょうか

岡崎 政府や専門家会議が出した対策は、保健師を大幅に増員するのではなく、保健所の他の部署からコロナ対策の部署への応援です。

しかし、保健所の業務はそれだけではありません。地域保健法では、地域保健の思想の普及向上や統計、食品衛生、上下水道、廃棄処理、環境衛生、母子保健・乳幼児保健、老人保健、精神保健、エイズ・結核などの疾病予防があります。さらに、都道府県の保健所は、市町村の連絡調整や技術的助言・研修などが加わります。これらの部署ももともと人手不足。新型コロナの部署へ応援に出すことによって、保健所全体の機能低下が起こっています。悪循環でしかありません。

いま必要なのは、地域の公衆衛生行政に思い切った財源を保障し、地方自治体の公衆衛生、保健行政の「集約化」をやめ、再び地域の保健所や保健センターを設置し、公衆衛生の医師を所長必置に戻し、保健師を大幅に増員することです。

公衆衛生を再生する展望ある方策を示しつつ、当面の状況を乗り切る緊急方策を実施し、次に来る感染拡大において「人員不足・機能低下の連鎖」を再来させてはなりません。また、地方環境研究所の法制化と拡充も緊急の課題です。

――自治体職員に求められるものについて

岡崎 地方行革が始まって20数年。若い職員にとっては地方行革が当たり前で、直接的に住民の命と暮らしを守る職員の役割よりも、企画担当や住民の取り組みをマネージメントするという仕事になってはいないのかという危惧があります。

今、社会全体が厳しいから、住民からのクレームが増えているのではないでしょうか。職員にすると、「なぜそんなことを言われなければならないのか」というのが正直な気持ちで、住民は、「自分たちに文句を言ってくる人」となりかねない。社会全体の背景を学んでおかないと住民が悪いとなってしまいます。

行政改革は、公務員を減らす改革です。公務員が減るから行政が機能しなくなり、住民から苦情が出る。職員は、精いっぱいやっているのに、「あの住民たちは何だ」となってしまう。改革に徹すれば徹するほど、住民からの信頼をなくしていく。ここに職員が乗ったらだめです。そういう構造背景を知りつつ住民の中に入って、暮らし、生活を守っていく工夫をする必要がある。そのような仕事が、面白いと思える工夫をしていかなければならないのではないでしょうか。

コロナの問題と結びつけて、本当に求められる自治体職員とは何だろう、その議論を大いに展開してほしいと思います。


京都自治労連 第1967号(2020年10月5日発行)より

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