機関紙 - あの人に会いたい10 弁護士 小笠原伸児さん 憲法9条京都の会世話人
おがさわら・しんじ=
長野県出身/立命館大学卒業/1991年より京都法律事務所所属 弁護士/憲法50フォーラムの取り組みから憲法平和運動に参加するようになり、京都憲法会議、守ろう憲法と平和きょうとネット、5/3・11/3憲法集会、憲法署名京都実行委員会等の取り組みを経て憲法9条京都の会設立に参加。
守ろう憲法と平和きょうとネット代表幹事 憲法9条京都の会世話人/2018年より自由法曹団京都支部幹事長
自治体労働者の願い生きる政治へ
ご一緒に改憲発議をストップさせましょう
9月16日、菅政権が発足しました。菅首相は、「安倍政治」の継承を掲げ、積極的に改憲を進めようとしています。今回の「あの人に会いたい」は、憲法9条京都の会の世話人の一人である小笠原伸児弁護士を訪ねて、菅政権の改憲の特徴と「改憲発議反対、全国緊急署名」についてお聞きしました。
――安倍首相は、悲願であった憲法9条改定を行うことなく辞任しましたが、「安倍9条改憲NO!3000万人署名」はどのような役割を果たしたのでしょうか
小笠原 辞任の記者会見で、憲法改正を実現することができなかったのはなぜかと質問された安倍前首相は、「残念ながらまだ国民的な世論が十分に盛り上がらなかったのは事実であり、それなしには進めることができなかった」と答えました。しかし、国会の多数議席を恃んで、次々と悪法を強行採決してきた安倍政権の強権的なやり方を経験している私は、国民世論が盛り上がらなかったからという理由をそのまま鵜呑みにすることができません。
私は、安倍9条改憲を阻止した背景には、侵略戦争加害者としての経験と戦争被害者としての体験から、二度と戦争はしないと決意し、一切の戦力を放棄させた憲法9条に対する多くの国民の信頼があったと思っています。その上で、私たちは、今まで以上に幅広い、全国の多くの仲間の皆さんと手をつなぎました。市民運動の皆さんと労働組合の皆さんが手をつなぎ、そして、立憲野党の皆さんとも手をつなぎました。その運動の共通の手段となったのが「安倍9条改憲NO!3000万人署名」でした。この署名を持った全国の仲間が、津々浦々で戸別訪問して市民と対話し、一つひとつの署名欄を埋めて、1010万筆を超える運動へと発展させていったのです。
強行採決を繰り返した安倍前首相も、多数の世論を背景にした、かつてない、市民と労働組合と立憲野党の共闘運動を前にして、9条改憲発議を強行することができなかった、それが真の理由だったのではないかと、私は思っています。
――菅首相は「安倍政権の継承」を主張していますが、改憲についてはどのような立場及び 手法を使って臨もうとしているのでしょうか
小笠原 菅首相は、首相指名直後の記者会見でも「安倍政権が進めてきた取組をしっかり継承して前に進めていくことが私に課された使命である」と述べたように、安倍前首相が最重要課題としてきた9条改憲を実現しようとする立場にあることは明らかです。ただ、安倍前首相とは異なる手法も取り入れつつ、巧みに改憲策動を進めるのではないかと思います。
第1は、菅首相自身からの改憲発言を控えて派手な衝突を避け、護憲派の警戒心を解く手法です。第2は、積極改憲派の衛藤征士郎氏を自民党憲法改正推進本部の本部長におき、推進本部の顧問に各派閥の領袖を据えて挙党態勢化をはかり、自民党として本格的に改憲策動を進める手法です。第3は、「安倍政権の下での改憲議論は進めない」という言い訳は通用しなくなったとし、野党間の分断を謀りながら、憲法改正に前向きな野党を巻き込んで、衆参両憲法審査会での議論を活発化させる手法です。第4は、これまでと同様、中国等の軍事的脅威をあおり、不安を増長させて、敵基地攻撃能力保有論等の9条改正必要論を展開する手法です。
――現在、全国市民アクションが呼びかけている「改憲発議に反対する全国緊急署名」運動 にはどのような意義がありますか
小笠原 全国の仲間の皆さんとご一緒に、全国統一の署名用紙を携えて取り組んできた経験と国政での立憲野党共闘の本格的な前進を体験して、私は、大きくいって二つの意義があると思います。
一つは、いわゆる安倍9条改憲の発議を絶対に許さない運動目標にとって重要な意義があるということです。自衛隊を憲法に明記するという安倍9条改憲は、憲法9条を骨抜きにするものです。しかし、自衛隊に対する国民の「信頼」を逆手にとった宣伝によって、その危険性が覆い隠されていました。ですから、国民投票より前の、国会による改憲発議の段階で、絶対にこれを阻止する運動目標が必要不可欠でした。全国緊急署名は、そこに焦点を当てた署名であり、私たちの運動の大事なツールになっているのです。
もう一つの意義は、立憲野党間共闘を支え、強め、政権共闘にまで発展させていく、極めて重要な役割を担っているということです。全国緊急署名は、多くの市民と労働組合の幅の広い共同に基づく運動の中でも中核的な運動であり、立憲野党間の共闘を後押しし、政権共闘を展望することのできる段階にまで野党共闘を進化させてきたのです。
――自治体労働者・労働組合へのメッセージをお願いします
小笠原 私が最も好きな憲法の条項は13条です。公権力に対して、人が生まれ、育ち、人格をもつ主権者へと成長し、そして亡くなるまでの全ての過程において、ひとり一人を尊重し、大切にせよと命じているからです。そして、個人の尊重をはかるには、憲法に基づく政治が不可欠です。その憲法政治の実現は、国だけでなく地方にも求められています。
自治体労働者の皆さんは、私たちの最も身近な場面で、地方の政治、行政を担っておられます。地域住民のために働こうと願って公務労働に従事されている皆さんが、憲法の理念に寄り添い、改憲に反対して運動に参加される姿は、私の大いなる希望です。
ぜひご一緒に、改憲発議に反対し、立憲野党政権を誕生させる取り組みを進めましょう。
京都自治労連 第1969号(2020年12月5日発行)より