機関紙 - あの人に会いたい14 歯科医師 秋山和雄さん…保険適用範囲を広げ「保険で良い歯科医療を」
あきやま・かずお=
1941年 東京に生まれる
1968年 東京歯科大学 卒業
1982年 京都府丹波町(現:京丹波町)にて秋山歯科開業
2016年 京都府歯科保険医協会理事長 就任
2018年 京都府歯科保険医協会顧問 就任
2018年 「保険で良い歯科医療を」京都連絡会代表世話人
歯科医療格差をなくす自治体施策の充実を
私たちは歯科を受診するとき、医療保険内で治療できるのかと不安になります。一方、子どもたちの口腔崩壊が大きな問題となっていて、コロナ禍で、さらに悪化しているのではないか心配です。日本の歯科医療の現状について、歯科医師で「保険で良い歯科医療を」京都連絡会代表世話人の秋山和雄さんに、お話をお聞きしました。
――日本の歯科医療の現状について教えてください。
秋山 現在、先進国の医療技術は、医科も歯科もほとんど同じ水準と言えます。医療費については、日本は低医療費政策のもとで、医療技術費が異常に低く抑えられるとともに、診療報酬の医科と歯科の格差が戦前から一貫して続いていることが大きな特徴です。
政府は、1961年の国民皆保険制度発足当初から、歯科医療に保険を積極的に適用せず、新しい技術の保険適用も進みませんでした。一般の医科では、診察や検査、手術も含めほとんどの治療が保険で受けられ、新しい技術も基本的には保険が適用されています。
今から10年ほど前に、日本歯科学会が、診療行為についてのタイムスタディー調査を行いました。歯科医の診療行為を、ストップウオッチを使って一つひとつ計って調べたのです。その結果、診療報酬の点数と比較すると、7割が不採算と出ました。特にひどいのが入れ歯で、8割が不採算との結果です。
このため歯科医院では、例えば、虫歯治療で「保険でもできますが、セラミックなら白く丈夫です。一本7万円です」等と言わざるを得なく、「歯科へ行けば高くつく」となってしまいます。
この問題は国会でも取り上げられましたが、政府は「一つひとつの診療行為が、採算が合うかは考えていない。トータルとしては、採算が合っている」と答弁しています。この"トータル"というのは、保険診療と自費治療とを合算した額のことです。だから、歯科の保険医療に新しい技術を導入してこなかったのです。
最近、科学的解明が進み、歯周病が糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞と関係があることや、早産の原因であることも分かってきました。自分の歯や入れ歯で咀嚼できるかで、認知症やうつ病の割合に差があることも明らかになるなど、歯科の重要性が注目されています。
――歯科技工士、歯科衛生士の現状はどうなっているのでしょうか。
秋山 入れ歯やかぶせ物を作っている歯科技工士の現状は大変深刻です。歯科医は、少しでも採算をとるために、より安い歯科技工士に発注します。価格競争のなかで低賃金・長時間労働に追い込まれ、希望が持てず、20代の歯科技工士の8割が離職しています。たくさんの歯科技工士学校が、閉校になっています。10年後、20年後の入れ歯は、誰が作るのでしょうか。
歯科衛生士は、高齢者の口腔ケアが大切なことが分かり、高齢者施設などで需要が大変増えています。しかし、歯科衛生士が自立して定年まで、子育てをしながら働き続けられるかというと、そうではありません。
歯科技工士・歯科衛生士の人たちの、ちゃんとした収入が確保できる制度づくりが必要です。
――コロナ禍で、歯科医療はどのようになっていますか。
秋山 虫歯が10本以上、虫歯がたくさんあり咀嚼が困難な状態を「口腔崩壊」と言います。コロナ禍以前から、口腔崩壊児童が増えていることが大きな問題でした。保団連の医科歯科学校健診後調査で口腔崩壊の児童が「います」と答えた学校は、2019年は、28・9%、2020年では29・8%へと増加しており大変深刻です。
学校歯科検診で、「要検査・治療」勧告を受けた児童の割合は、19年度が32%、20年度が31・1%と少し減っていますが、治療に行かなかった無治療の割合は、19年度が57%、20年度が62・3%と増加しています。
高齢者では、所得が300万円以下の4割が「歯の治療が必要だが、歯科に行ったことがない」と回答。所得が800万円以上の人では、同じ質問に対して回答が13%となっており、3倍の違いがあります。それだけ、所得による受診の抑制があります。窓口負担が2倍になれば、さらにひどくなることは明らかです。
一方、歯科医院は、「歯科はコロナに感染しやすい」等と間違った報道がされた結果、受診抑制が起こり、歯科医院の経営危機が進んでいます。調査では、コロナで約2割近い患者さんが減っています。
事実は、歯科医院でコロナのクラスターが発生した件数は医科の医療機関や施設に比べて極めて少ない。それだけ歯科医院では、コロナ禍以前から、感染防止対策としてマスク、消毒、ウガイ、手洗いが徹底されてきました。安心して歯科を受診してください。
――行政や職員への要望をお聞かせください。
秋山 私は以前、デンマークとスウェーデンの歯科医療の視察に行きました。デンマークでは、小学校に歯科治療室があって、検診の結果「治療が必要」となった児童は、授業中に治療を受けていました。もちろん無料です。スウェーデンでは、18歳まで歯科治療は無料。しかも矯正も無料です。日本では、矯正は保険適用外の為、何十万円もかかります。「歯並びが悪い。矯正治療が必要」との勧告を受けても、お金がなければ治療を受けることが出来ません。経済的格差による住民の医療格差をなくすため、自治体には独自の施策を作っていただきたい。京都市は、子どもの虫歯が減ったら予算を減らすのではなく、中学卒業まで無料にすべきです。
皆さんには、ぜひ「保険でより良い歯科医療を」の署名に協力していただきたいと思います。私が学生の頃は、「医労提携」とよく言っていました。「貧困な医療政策と低賃金労働の根っこは一緒」だから、共同しようという意味です。社会保障を充実させるため、新しい「医労連携」を大いにすすめましょう。
京都自治労連 第1974号(2021年6月5日発行)より