機関紙 - あの人に会いたい16 北区・上京区食料品・日用品提供プロジェクト 蒲 大志さん…コロナ禍、困窮する学生の力になりたい
がま・ひろし=
1989年 京都市生まれ
2013年 龍谷大学卒業
2016年 平和企業組合入社
2019年 光正企業組合入社
2020年 食プロに参加
※食料・日常品提供プロジェクト(食プロ):コロナ禍に職を失うなど生活困難になっている市民や、アルバイトが激減して困っている学生などを対象にした、食料や日用品を提供する取り組み。地域住民・市民団体や労働組合などがボランティアで協力して行っています。
学生の危機を直視し
一刻も早く対応策を
新型コロナ感染拡大の中で、学生の現状は大変深刻です。府内各地で生活困窮の人々に食料を提供し相談活動を行う「食料・日常品提供プロジェクト」(以後:食プロ)が行われています。「あの人に会いたい」今回は、全国一般労働組合の一員として「食プロ」に取り組んでいる蒲大志さんに、学生の現状や「食プロ」についてお話を伺いました。
――どのような経緯で食プロに係るようになったのですか
蒲 昨年の10月に、京都市の北区、上京区にある3つの大学の近くで、住民の皆さんや労働組合、学生などが中心になって食プロの取り組みが行われました。私は、労働組合活動で知り合った学生から「良かったら手伝って」と声を掛けられ、「どんな事をしているのかな」と軽い気持ちで行ったのです。午前10時から始まるのですが、開始前から何十人もの列ができているのです。私は、この光景に「えっ!何が起こっているのか」と大きな衝撃を受けました。
何人かの学生と話をしたのですが、ある大学の2回生の女子学生は「コロナでバイトが全然なく、親からの仕送りも厳しく、食べることもままならない。授業がなく孤独。1ケ月前にマンションにビラが投函されたが、この日を忘れないようビラを冷蔵庫に貼って待っていた。他の場所でもあるのなら教えてほしい」とのことでした。同志社大学や立命館大学の学生も「バイトがなく苦しい」「返済なしの奨学金を作ってほしい」「せめて学費の減免を」等と、どの学生からも切羽詰まった深刻な実態と切実な要求が聞こえてきました。
コロナ禍で暮らしや地域経済が大変になっていることは、私の仕事でも重要課題となっていますので、「学生も大変」とは思っていましたが、直接話を聞いて深刻な実態に「何か力になりたい」と強く思ったことがきっかけです。
――食プロの担い手が広がっていると聞きましたが、何が魅力と思われますか
蒲 今年に入って、北区・上京区で9回の食プロが開催され、1200人以上の方がこられています。その中で、支援を受けた学生が、支援する側になるうれしいことが相次いでいます。スタッフ募集の張り紙を見て、「私も何か役に立ちたい」と声が掛かり、友達と一緒に「手伝いに来ました」などと毎回のように嬉しい広がりが生まれています。北区・上京区の食プロでは、昨年秋は12人の青年スタッフでしたが、どんどん増えて多い時には25人を超えることもあり、この間、50人程度の青年・学生がその時々の条件に合わせて参加しています。ハンドマイクでの宣伝やラインを使っての情報提供、商店街への協力要請など、みんな生きいきと頑張っています。
コロナ禍で、バラバラにされ孤立して、「自分だけが苦しんでいる」と思っていた学生が、「自分も何かしたい」と思って参加して、同じ学生だけではなく、地域の皆さんと試行錯誤を繰り返しながら作り上げていく過程が、食プロの魅力だと私は思います。そういった雰囲気が、「今度は何か協力したい」「また来たい」と思ってもらえるのではないでしょうか。食プロは、コロナ禍からいのちと暮らしを守る新しい連帯を作り出す場所にもなっています。
私自身の経験ですが、昨年秋、食プロ実行委員会に初めて参加した時に、地域のある方の「こうした取り組みは、青年や学生が主体となってやるべきで、そこに大人が手伝いをするのが本来の姿ではないか」との話に、いつも、お客さんで参加していた自分の中のもやもやが、ぱっと晴れたような気がしました。
今では、青年・学生が自分たちの取り組みとして主体的に参加しています。
――商店街や食堂など地域の支援も広がっているとお聞きしますが
蒲 毎回、食プロ会場近くの商店街や食堂などに学生たちと一緒に商店街回りをしています。ビラを置いてもらえないか、ビラを貼ってもらえないかとお願いに回りますが、「それぐらいなら」「いい取り組みですね」など多くの協力や激励の言葉をかけてもらっています。協力していただいたお店や商店街には、実行委員会ニュースも配布し、食プロの認知も広がってきています。
――学生の実態や声から、自治体に求められるものはどのようなことですか
蒲 食プロでは、「なんでも相談会」やアンケートにも取り組んでいます。8ケ月間で、約500人の青年・学生の声を集めることが出来ました。そこから、自治体に求めることは大きくいって次の三つです。
一つは、コロナ感染症への不安を軽減して、安全・安心な大学生活が送れるようにしてほしいというものです。そのために、希望する学生に大学で定期的なPCR検査を無料で実施することや、希望する学生にワクチン接種が確実に受けられる体制の確保、コロナに感染した場合、学生の保護、生活支援、学習支援をして欲しいというものです。
二つ目は、バイトのシフト減、解雇などで困窮する学生に財政支援をして欲しいというものです。学生への緊急支援金や根本問題にある高すぎる学費の引き下げ、給付型の奨学金制度の創設です。
三つ目は、学生の生活困窮や不安にこたえる生活相談体制の強化です。コロナ禍で、学生の現状は本当に深刻です。経済的理由から大学の中退を考えている学生も少なくありません。学生が路頭に迷い夢をあきらめることがないよう、国に対してしっかりものを言っていただくとともに、自治体独自の支援策を強く求めます。
京都自治労連 第1977号(2021年8月5日発行)より