機関紙 - あの人に会いたい20 京都社会保障推進協議会政策委員 中村 暁さん…コロナ禍から、医療機関や行政、住民が力合わせて命を守る運動を
なかむら・さとし=
京都社会保障推進協議会政策委員
共著書に『安倍医療改革と皆保険体制の解体 成長戦略が医療保障を掘り崩す』
(岡崎祐司・中村暁・横山寿一、福祉国家構想研究会編著、大月書店刊)他。
科学的・医学的見地に立ったコロナ対策を
国に対して、しっかり物を言う府政が必要
京都府では、コロナの第6波で亡くなる方が急増し、第5波の6倍にもなっています。人口100万人当たりの亡くなった方が、大阪を抜いてワーストワンになってしまいました。その一方で福知山市では、大江分院の病床削減の条例が提案されています。一体京都のコロナ対策、地域医療はどうなっているのでしょうか。地域医療の充実の運動に取り組んでおられる京都社会保障推進協議会政策委員の中村暁さんにお話を伺いました。
――今、コロナ対策の現場で何が起こっているのでしょうか。
京都府の感染者数は、今のところ2月9日の2996人をピークに引き続き高水準です。
3月15日現在の確保病床利用率は44・1%(402/904)、自宅療養者数は9262人で、第6波は凄まじかった第5波をはるかに凌ぐ感染拡大です。
京都府内で大きな問題となったのは、高齢者施設入所者が陽性と診断されても入院できず「施設に留め置き」される事態です。
現場からの訴えは悲痛で、「救急車を呼んだが入院できずに送り返された」「入院できずに施設で亡くなられた」。更に「入院を求めたところコントロールセンターや救急隊から『延命措置』の有無を確認された」との訴えまであります。
――京都府のコロナ対策をどのように見ておられますか
京都府が公表する新型コロナの確保病床数は904床ですが、「まやかし」ではないかと言われても仕方がない状況にあります。904床のうち110床は「入院待機ステーション」(島津アリーナ京都に開設)ですが、まともに機能しているとは言えません。3月2日時点での使用病床は1床だけと聞いています。
医療スタッフを確保して「110床」をフル稼働させれば、高齢者施設の「留め置き」状態の改善に大きく貢献したはずです。医療を受けられず亡くなられた方や家族のことを思うと、厳しく批判されても仕方がありません。
府のコロナ対策が、科学的・医学的な見地に基づき、しっかり行なわれていれば、「110床」を架空の病床のままにして稼働させない判断はあり得ません。
また、23ヶ所から8ヶ所に統合された保健所の増設や、実は38床しかない感染症病床の抜本的見直しが必要なのに全くそのようなことはありません。驚くことに府知事は「保健所の統合はメリットがあった」と発言しています。
こうした府のコロナ対策になってしまっているのは、これまでの国策の積み重ねによるものだということを、自治体職員の皆さんには深く理解して欲しいですね。
国の施策は相も変わらず「病床削減」「医師抑制」のまま、あくまでそれを貫こうとしています。だから、感染症病床を増やす議論や、保健所の数を増やす議論はほんのかけらも出てきていません。
――国の医療政策の特徴は何ですか
医療費を削減する医療制度改革は、小泉改革以降、一貫し、着実に推進されています。改革の最大の眼目は「都道府県単位の医療費適正化」システムをつくることにあります。
都道府県は6年を1期として「医療費適正化計画」を策定し、都道府県が推進役となっています。
そして、入院医療費なら病床数・医師数、外来医療費なら医師数が医療費が高くなる主な要因だとして、削減の標的にしています。
「地域医療構想」がその中心的な仕組みで、2025年までに全国で「20万床削減」を目標としています。
ところが、医療機関や住民の抵抗があり、病床削減は自動的には進みません。そこで、業を煮やした国が出したのが、全国の公的・公立病院424病院(現在は436)の名前を発表し、病院の統合を含む病床削減を迫ったのです。
そのリストに、京都では、国保京丹波町病院、市立福知山市民病院大江分院など4つの医療機関の名前が入っていたのです。福知山市の3月議会に、大江分院の機能変更と、1病棟と16病床削減の条例がこのコロナ禍に提案されています。
もう一つの柱が、医師を削減するために「医師偏在指標」を使った医師数のコントロールです。
2019年度に、全都道府県・二次医療圏を「医師多数区域・医師少数区域・どちらでもない地域」に分別して、「医師多数」とされた都道府県は、医学部学生の定数削減や他県から医師採用が自由にできなくし、逆に「医師多数」の県から「少数」県へ医師を派遣する制度なども考えています。京都府は医師の数が全国2位ですから、医師数が確実に減らされます。
――コロナ禍でも、病床や医師の削減をすすめようとしているのですか
新型コロナの感染拡大当初は、さすがに表立った動きはありませんでした。しかし、2021年5月に国会で成立した改正医療法は、コロナ禍にあっても、病床削減、医師削減をすすめる宣言と言えます。
国は、新型コロナ感染症拡大を、「イレギュラーなものにすぎない」として、地域医療構想を着実に進めていくとしています。消費税を財源に、病床削減や医療機関の統合・廃止を後押しする財政支援制度もその一つです。
それだけではありません。国は、公立・公的病院だけではなく、民間病院にも地域医療構想達成へ従属させる動きをさらに強めています。
――地方自治体、職員に対しての要望をお聞かせください
私はこれまで、府の医療政策は、国の政策に可能な限り抵抗してきたのではないかと一定評価してきました。しかしコロナ禍は、国いいなりの府の本性を露呈させたと思います。
地方自治体には、住民のいのちと暮らしを守る義務があります。国の方針にただ従うのではなく、今ほど、国の誤った方針にしっかり物を言い、住民を守る役割を果たすことが求められているときはありません。特に京都府と知事にはその役割を果たしてほしいです。
職員・組合員の皆さんとは、地域医療を守るためにご一緒に力を合わせていきたいと思います。
京都自治労連 第1985号(2022年4月5日発行)より