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機関紙 - あの人に会いたい21 オランダ トランスナショナル研究所 岸本 聡子さん…世界の再公営化から学ぶ日本の水道のありかた

あの人に会いたい21 オランダ トランスナショナル研究所 岸本 聡子さん…世界の再公営化から学ぶ日本の水道のありかた

カテゴリ : 
組合活動
 2022/5/10 16:10

きしもと・さとこ=
1972年東京生まれ。
27歳で渡欧してアムステルダムにある国際政策NGO,トランスナショナル研究所の職員として、水の権利運動を支援する。水道、電力、ケアなどの公共サービスの脱民営化の研究を労働団体や大学と協力して行っている。

著書「水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」(集英社新書)。


世界は再公営化が本流
住民目線に立った水道施策を

昨年12月、宮城県が、上下水道と工業用水の運営権を一括して売却し民営化するなど、日本の水道事業の形態が大きく変わろうとしています。京都でも、府の水道広域化(北部、中部、南部の3圏域)の推進、府営水道と受水市町の事業・施設統廃合計画の策定(22年度中)が進められています。一方、世界では、民営化から再公営化の大きな流れが力強く広がっています。オランダのトランスナショナル研究所の岸本聡子さんにお話を伺いました。

――ヨーロッパの水道の歴史、公営から民営への歴史についてお話しください。

水は人々の命に関わるものですから、従来は世界のほとんどの国が公営で営んできました。ところが、70年代半ばから広がった、新自由主義の流れの中で、水までもが資本の儲けの対象とされ、公営化から民営化へと広がりました。

ヨーロッパは、世界の中で一番水道の民営化が進んだ地域です。

しかし、全てが民営化ではありません。オランダは100%公営ですし、まだたくさんの国が公営です。極端に民営化が進んでいる国はイギリスで、1980年代にサッチャー首相が100%完全民営化を強行しました。世界でも特殊なケースです。フランスはだいたい70%、続いてスペイン50%、イタリア30%です。

世界で最初に民営化を始めたのがフランス。フランスでは、完全民営化ではなく、いわゆるコンセッション方式です。水道施設の所有権は自治体が持ち、運営権を民間業者に渡して包括的に運営するということです。パリもマルセイユもボルドー、リオンもコンセッション契約をしています。

――なぜ、再公営の流れが出来たのですか。

大きな転機となったのが、2010年、パリの水道再公営化です。パリを出発点にして、14年、15年と飛躍的に再公営化が広がりました。共通している第一の理由は、民営化された水道事業の不透明性です。

民営化では、長期(25―30年間)にわたって運営権や意思決定権が企業に移ります。そのため自治体から水道の技術者がいなくなります。水道の監視やチェックは一般職員にはできません。企業の報告を鵜呑みにし、料金値上げや新技術の導入などは、企業の言いなりになります。パリでは、水道料金が民営化前と比較すると174%上昇し、民営化前よりずいぶんコスト高になり、役員報酬の高額化や使途不明金問題なども起こっていました。この様な中で、30年契約の満了を迎えた自治体が相次ぎ、再公営化に自治体が舵を切ったことが大きな理由です。

第二の理由が、気候変動問題や大災害、施設の老朽化などのリスクをどこが責任を持つかという問題です。結局、企業は責任を持たず自治体が責任を持つことになります。しかし、日常的な運営に携わっていないのに、災害時に対応できるはずがありません。

第三の理由が、水道事業が果たしている、公共政策を維持し高める調整機能が分断される問題です。自治体では水道事業を通して、環境保全はもちろん、地域経済、教育、福祉施策など多岐にわたる事業が行われています。様々な人々が協議・協力し合って政策をつくっていますが、民間企業にはその責任を持つ必要はなく、民営化はそのつながりを分断してしまうのです。

――各国の民営化反対、再公営化運動に公務労働者がどのように関わっていますか

世界各地で公務労働者が大きな役割を果たしています。イタリアの経験を紹介します。

イタリアでは、ベルルスコーニ首相の時に、水道の民営化をすすめる法律が強行されました。それに対して、イタリア全土で怒りの声が沸き起こり、地域の運動が国民投票にまで発展し、その結果、憲法を改正して「水は人権である。水で利益を上げてはならない」ということを憲法に明文化して、民営化の法律を無効にしました。

このとき大きな力になったのが、公務労働者と市民の共闘です。職場を守るだけの運動では広がりませんが、「市民に安全で安い水の提供は、公営でこそできる」と労働者がスローガンを掲げ、住民に共感が広がり一緒にたたかいました。住民にとっては、公務労働者の専門性と知識は、運動を進めるうえで決定的に重要で、政府や当局のごまかしや言い訳を打ち破りました。

――京都府が、「新・京都府営水道ビジョン」を発表(3月24日)し、府の水道事業が大きく動こうとしています。

京都府の南部の10市町に現在21ヶ所ある浄水場を12ヶ所或いは9ヶ所に統合する案ですね。そもそもこの案は、水道事業の広域化や民営化を進める改定水道法に基づいて進められています。また、戦後の日本の水道事業は、全国に作り過ぎたダムをいかに維持させるか、市町村にいかに多くの水を購入させるかが基本の柱だったといえます。

その一方で、全国各地には豊かな水資源があり、たくさんの簡易水道や浄水場が維持運営されてきました。ご存じのようにその多くが、老朽化と人口減少の問題を抱えています。このような中で、「広域化は絶対反対」というだけでは、政策担当者には無視され、住民にもなかなか伝わらないのではと危惧しています。

この問題を考える基本は、いかに国や府ではなく市町村目線、住民目線に立って議論され、計画されているかだと私は思います。安全で、美味しく、安価で豊かな水資源があるのに、府から計画が押し付けられるのはおかしいと思います。住民参加で、未来の水道の在り方を議論することこそが必要と考えます。

現在京都府が進めている方法は、住民への説明も行わず拙速に強行しようとしイタリアの経験でお話しましたが、公務労働者・労働組合の皆さんの果たすべき役割はとても大切です。水はいのちの問題、人権問題であり、まちづくりの基本の問題です。公務労働者の皆さんがその役割を発揮されることを願っています。


京都自治労連 第1986号(2022年5月5日発行)より

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