機関紙 - 国民監視 基本的人権侵害 平和運動弾圧…「重要土地利用規制法」9月1日から全面施行…自治体職員が住民監視の役割を担う
米軍・自衛隊基地・原発などの周囲1キロは「注視区域」に
2021年6月16日に成立した「重要土地利用規制法」(正式名称:重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律)が、9月1日から全面施行となりました。この「重要土地利用規制法」は、憲法が保障するプライバシー権や財産権などの基本的人権を侵害するとともに、地方自治体・自治体職員の仕事にも大きな影響を及ぼします。さらに、戦争につながる危険な法律です。
政府の恣意的運用で国民の権利を不当制約
この法律の重大な問題は、(1)新たに法律を制定する場合は、その必要性を裏付ける社会的事実が必要とされますが、「重要土地利用規制法」は合理的事実が示されないまま可決したこと。(2)誰が、誰を対象に、いつ、どこで、どういう方法で調査するのか、土地・建物の利用規制の勧告・命令の対象となる「機能阻害行為」とはどのような行為なのかなど、核心部分を全て政府の判断に任せ政令で定めるとし、まさに政府に白紙委任するものであること。(3)国会審議の中で、全ての参考人が問題点を指摘したにもかかわらず、まったく修正されることなく採決が強行されたことです。この法律には、政府による恣意的な運用で国民・市民の権利に不当な制約がかかる危険性があり、一刻も早い廃止と、監視などの活動が必要です。
土地建物を利用するすべての人が調査対象
米軍基地や自衛隊基地、原発など「重要施設」の周囲約1キロと国境にある離島を「注視区域」に総理大臣が指定し、区域内の土地・建物の「利用状況調査」を行います。その際、土地・建物を利用するすべての人が調査対象になります。
調査内容に、利用者の職業や収入、家族・交友関係、活動歴、SNSでの発信なども含まれる危険性は、否定できません。
法律では5年後に見直すことになっており、周囲1キロの範囲の拡大や調査内容の拡大も予想されます。
自治体と自治体職員を情報収集に動員
内閣総理大臣は、「関係行政機関」の長や「関係地方公共団体」の長などに対して、「土地等の利用者その他関係者の情報提供を求めることができる」となっており、自治体と自治体職員が情報収集に動員させられる危険性があります。
また政府は、「関係行政機関」に国民を常に監視している警察や公安調査庁、自衛隊の情報保全隊が含まれることに対して、「条文上は排除されない」としています。提供を求める情報も、利用者の情報だけでなく「その他の関係者」も含み、内容も「政令で定める」と政府の裁量次第です。
「機能を阻害する行為」とみなされると罰則
無届や虚偽の届け出をした場合は、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。調査の結果、「重要施設」などの「機能を阻害する行為」やその「明らかな恐れ」を認めた時は、内閣総理大臣は、土地・建物の利用中止などを勧告・命令します。応じない場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金となっていますが、何が「機能阻害行為」に当たるのか、法律には何も書かれておらず、政令で決めることになっています。
「重要土地利用規制法」は、たくさんの重大問題があるにもかかわらず、なぜ政府は、異常な拙速審議(2021年5月11日審議入り、6月16日可決)で成立させる必要があったのでしょうか。
緊迫する台湾、米国と中国の覇権争いの中で日本の「敵基地攻撃能力の保有」の動きと、自衛隊の1000発の長距離巡航ミサイルの配備計画や、米軍の中距離弾道ミサイル(射程距離500キロ〜5500キロ:北京が射程内)を2023年から日本本土を含めて配備の計画との報道もあり、米国の新たな核軍拡、ミサイル防衛戦略に日本が巻き込まれ、住民の暮らしが脅かされようとしています。
今必要なのは、軍事費の倍増をはじめとする軍拡ではなく、憲法9条に基づく平和外交こそが必要です。自治体職員が戦争に協力することがあってはなりません。「重要土地利用規制法」は、一刻も早く廃止しましょう。
京都自治労連 第1990号(2022年9月5日発行)より