機関紙 - 【農業】公共の研究機関の役割 安定した生産維持で農業を支え食の安全・食文化を維持・発展させたい
今回お話をうかがったAさんが所属する農林センター作物部は、府内各地に設置された農林水産技術センターのひとつの研究部で、亀岡市にあります。敷地内には庁舎に隣接していくつものハウスや畑が広がっています。担当の大豆や小豆など豆類の収穫時期が続いている忙しい中、仕事についてお話を聞きました。
高齢化、担い手不足を乗り越え、安定供給
「京都府特産の豆類の産地では、高齢化と担い手不足が課題となっています」とAさんは開口一番に地域の課題を話します。担当している小豆は京都の和菓子づくりに欠かせない重要な食材。これまでは小さな農家がひと莢ひと莢、株から採って乾燥させたものを寄せ集めて出荷していました。そこで、集落営農(集落を単位に農業生産過程の全部又は一部を共同で取り組む組織)などで、小豆の栽培に取り組むための技術開発が必要でした。「これら地域の課題を技術開発で改善につなげることが仕事です」とAさん。栽培技術の支援も行います。「雑草防除の問題が発生しましたが、防除技術の機械化も確立しつつあります」とAさん。
また、「大豆の草丈を低くコンパクトにして農家の作業効率を上げる栽培実験なども行っています。なによりこれらの取り組みによって、地域の生産者が安心して栽培でき、安定した食材の供給につながることになればうれしい」と話します。
種子の保存・管理は公共の大切な仕事
お米や豆類の栽培に必要な種子を管理し、安定して供給していくのも、Aさんが所属する作物部の重要な仕事です。
府内で栽培されている水田1万数千ヘクタールすべてにお米の種「種もみ」を1年で栽培・供給するのは無理で、また、管理された種子から栽培しないと種子の変異などからお米の品種が保てません。京都府では「原原種」といわれる種子の大元を保存管理していて、ここから種を増やし、最終的には生産農家に供給しています。これはお米だけでなく、豆類も同じで、種子の保存・管理は高品質な農産物を安定供給するために重要なこととAさんは話します。
近年の異常気象で米の品質や収穫量に影響が出ている生産者の声に対応して、いち早く品種改良したお米を開発し、品質維持で生産者を支えます。
「京都の酒造会社に卸す酒米も昔から管理された種子で生産され、品質に信頼を得ています。伝統ある京都の食文化を支える意味でも重要な仕事ですね」との言葉に、Aさんの仕事への誇りとやりがいを感じました。
継続が大切な地道な仕事引き継ぎ発展させたい
取材のはじめにAさんから頂いた名刺には、様々な資格が並んでいました。Aさんは少し照れながら「これまで上司や同僚、仕事に恵まれ、長くさせていただいたから…」と話します。研究員の仕事は、作物の生長の記録と観察の積み重ね。今日お話した仕事も一人ひとりでやっているというより、先輩らから引き継ぎ、作物部のみんなで、ものによってはセンター全体、広くは府庁全体で協力・共同し積み重ねていくものといいます。
「後輩がいて頑張ってくれていますが、京都府で培った技術をどう若い世代に引き継いでいくのか、職場での取り組みが重要です。個人としても分会長としても、今後の私の課題です」とAさん。近年の異常気象でその対応も求められる中、過去の経験や記録をいかに継承していくか、それが大事になってくると話されていました。
温暖化対策や種苗法改正への対応など、新たな課題もある中でAさんの奮闘は続きます。
京都自治労連 第1993号(2022年12月5日発行)より