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機関紙 - あの人に会いたい28 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 柴田 悠さん…少子化に警鐘を鳴らし、2025年までの即時策の重要性を訴える

あの人に会いたい28 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 柴田 悠さん…少子化に警鐘を鳴らし、2025年までの即時策の重要性を訴える

カテゴリ : 
組合活動
 2023/4/5 8:00

しばた・はるか=
京都大学大学院人間・環境学研究科 教授

1978年、東京都生まれ。
京都大学総合人間学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。
専門は社会学、社会保障論、幸福研究。同志社大学政策学部任期付准教授、立命館大学准教授、京都大学准教授を経て、2023年度より現職。
著書に『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、2016年、社会政策学会学会賞受賞)、『子育て支援と経済成長』(朝日新書、2017年)など多数。


少子化対策は子育て環境改善と雇用安定、賃金増を同時に

2022年の出生数が、政府の人口統計予想を11年も早め80万人を切り、衝撃が走りました。1899(明治32)年に人口動態統計が始まって以来、初めての出来事。地方自治体にとっても、少子化問題は最も大きな課題の一つです。少子化にいかに対応するか期限を切った対策の重要性を発信されている京都大学教授の柴田悠さんにお話を伺いました。

――なぜこのような事態になっているのでしょう

私は、人口が減ることそのものは問題ではなく、少子化で高齢化が高まることによる人手不足と財政難が問題と考えています。

出生数が減った一番大きな原因は、若い人の結婚率が減ったからです。

なぜ結婚が減ったのか、雇用が不安定になり所得が伸び悩んでいることが一番大きな原因です。ここ30年ほど、他の先進国では賃金が伸びているのに日本だけが増えていないことは、日本の賃金が相対的に下がっていると言えます。

雇用に関しては、非正規雇用がこの30年間で一気に増えました。ここが一番大きな原因と考えられます。女性はもともと非正規雇用が多かったのですが、90年代前半には数パーセントしかなかった男性の非正規雇用が、90年代後半から一気に増え、結婚を考える若い世代では2割近くになっています。実質的な対象を全産業に広げた、労働者派遣法の影響が考えられます。

それから、教育費にお金がたくさんかかることも大きな要因です。子ども一人が、大学卒業までにかかる教育費用が最低1000万円(全て公立に行かせた場合、塾代含む)となっており、不安定な雇用と賃金のもとで、結婚や出産を控える大きな要因と言えます。

――すぐに結果が求められる即時策と、一定時間が必要な長期策を同時に進めることが重要とおっしゃっています

この問題の改善には、2025年までに即時策をどれだけ出来るかが大きなカギです。若い人の人口は今も少しずつ減っていますが、25年以降は20代の人口が倍速で減っていきます。ですから25年までに、結婚しやすい制度、育児しやすい制度への改善が必要です。

子育て支援策では、まず、保育園・認定こども園を子どもが預けやすい状況にするために、保育士が募集しても集まらない現状を変えることが必要です。現在では賃金が全産業基準よりかなり低く、最低でも全産業平均に引き上げる。

それから、長い間見直されてこなかった保育士の配置基準を、先進国並みに引き上げることも、保育士の負担を軽減し魅力ある仕事にしていくためには必要です。1歳児は5対1に引き上げる。3歳児についてはすでに15対1に引き上げるための補助金が出ていますが、4・5歳児では今も30対1のままなので、これを15対1に引き上げる。こうした改革を行うことで、現在、保育を離れている保育士も集まってくるのではないでしょうか。

それから、子育てをする親への支援です。現在は、1・2歳の子どもの多くは保育に通っていませんが、その背景には、親が働いていないと保育に預けにくい制度があります。この制度を、専業主婦(主夫)であっても預けられる制度に変えることが必要と考えています。それは、虐待のリスクを軽減するとともに、2歳では保育に通った方が言語発達が良くなる日本での研究結果があります。私自身の現在の研究でも、1・2歳は保育に通った方が将来の社会生活が良好になるという結果を得ています。

それから児童手当の拡充です。カナダのケベック州とイスラエルの研究では、児童手当が1%増えると出生率が0.1〜0.2%上がる結果が出ています。

もう一つの対策が、高等教育の学費軽減です。授業料を年間53万円免除(国立大学授業料に相当)すると、国公立大学の授業料は無料に、私立大学や専門学校は半額ぐらいになります。

もちろん、根本的な解決策は、非正規雇用を減らし30年上がっていない実質賃金を増やすことにありますので、それらも必要です。ただし、「来年度から非正規雇用をなくします」とするとかえって若者の失業率が上がってしまう可能性もありますので、改善には時間がかかるでしょう。「最低賃金を引き上げるために、中小企業への支援策を」と労働組合の皆さんが求めておられますが、体力のない企業が賃金を引き上げるための政府の一時策としては重要な提案と思います。これらは、即時策とあわせて同時並行で進めていくことが重要です。

――これらの対策には一定の予算が必要ですが、どのようにお考えですか

お話しました即時策を行うのに、私の試算では6.1兆円必要になります。それによって、現在1.30である出生率は、1.75まで上がる可能性が見込めます。当面の財源として、国債の発行もありうるかもしれませんが、長期に続けることはできません。財源の選択肢の一つとして、「資産課税」を増やすことも検討すべきです。

資産課税は、GDPへのダメージが最も少ない税であるとの分析もあります。大企業への内部留保課税も選択肢の一つと言えます。いずれにせよ、国民的議論のうえで多様な選択肢から幅広くミックスすることが重要です。

最もやってはいけないこは、財源として消費税を増税することです。消費税は、貧困層ほど負担が大きい税制度で、増税はますます少子化を招きかねません。

――自治体の果たす役割についてお話しください

自治体は、住民福祉の向上を行うことが仕事です。最近では、明石市や岡山県奈義町などが自治体独自の子育て支援策を行い、若い人が集まり出生数も増える優れた経験、先進例を示しています。

私は、その点で各自治体の首長の果たす役割が決定的に重要だと考えています。住民のみなさんの声をしっかり聴いて、国の政策にすべきこと、予算化すべきことを国に伝える。市長会や町村長会、全国知事会なども積極的に活用しながら、首長が共同して発言することが必要と考えます。そのような首長が求められていると思います。


京都自治労連 第1997号(2023年4月5日発行)より

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