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機関紙 - あの人に会いたい30 医師・社会福祉法人保健福祉の会 理事長 尾崎 望さん…コロナの教訓を、日本の医療政策を変える転機に

あの人に会いたい30 医師・社会福祉法人保健福祉の会 理事長 尾崎 望さん…コロナの教訓を、日本の医療政策を変える転機に

カテゴリ : 
組合活動
 2023/6/6 9:10

おざき・のぞむ=
1979年 京都大学医学部卒業
1982年 京都民医連吉祥院病院小児科
以後、京都民医連の小児科院所勤務
2021年 社会福祉法人保健福祉の会


いのちの選別繰り返さない
医療費抑制政策の転換を

新型コロナ感染症で、京都府内で亡くなられた方は1647人。また、高齢者施設で留め置きされ、必要な医療を受けることができず221人の方が亡くなられています。なぜ、これだけ多くの方が亡くなられたのか、検証もなく新型コロナ感染症の法律上の分類が、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行しました。「第9波」の可能性など、不安のなかでの移行です。医師の尾崎望さんに伺いました。

3年以上にわたる新型コロナ感染症のパンデミックで、明らかになったことはどの様なことですか

日本の医療・公衆衛生のぜい弱性、日本の医療政策の誤りが明らかになりました。医師のところではっきりしていることは、日本の医師の数がOECD諸国と比較すると少なすぎるということです。看護師数も1ベッド当たりでみればOECD諸国の中では非常に少ないです。(資料)

病床数は「多い」と言われていますが、精神科病床とか高齢者の長期療養病床とか、リハビリ病床を含んだ数であって、それを除くと世界で一番とは言えません。感染症病床は、9060床(98年)から1869床(19年)に減らされました。また、診療報酬が低いため、病院経営を守るためには空きベッドを置いておけず、政府から要請があっても、そう簡単に感染症病棟に作り替えるわけにはいきません。

もう一つは、公衆衛生政策の間違いです。保健所が92年の852ヶ所から20年には469ヶ所に減らされているのです。このような中で突然のパンデミックに対応できなかった。まさにこの間の医療政策と公衆衛生政策の誤りが明らかになったと言えます。

現場では、医療や高齢者施設の現場での判断より行政=コントロールセンターの判断が優先させられました。

私が、大きな問題だと思うのは、いのちの選別が行われたことです。高齢者施設に入所するときに、多くの場合、終末期心肺停止時に「蘇生措置を受けるか」どうか聞いています。「DNARの確認」と言います。今回のコロナで、入院を要請するとDNARの確認者かどうかを、救急隊や保健所で聞かれました。高齢者施設を対象としたアンケートではDNARを理由に留め置きされるケースが稀ではありませんでした。コロナでの症状悪化は、本来のDNARではありません。医学的措置が出来ることがあるのに、DNARの確認が出来ているからと、本来受けられる医療を受けさせなかったのは、命の選別が行われたといえます。救急隊員も保健所の職員も、自分の良心とは違うことを言わざるを得なく、辛い思いをされたのではないかと思います。

この教訓を、日本の医療政策を変える契機にすることが必要です。

しかし、岸田政権は、抜本的に医療政策を変えようとはしていません。どう見ておられますか

昨年9月に、京都府医師会が主催する「京都医学会」という学会がありました。そこに、産業医大教授の松田晋哉氏(社会保障審議会・医療部会メンバー、コロナ感染症対策アドバイザリーボード)を呼んで講演を行いました。その講演で松田氏は、「日本はフランスモデルが参考になる」と言っているのです。フランスの医療労働者は、週35時間労働です。だから、緊急事態に週50時間働いてほしいと言える。日本では、通常でも約1割(約2万人)の勤務医が年1800時間以上の超勤を強いられており、論外だというのですね。また、フランスのシステムは、地域の拠点病院に開業医が登録して、必要に応じて拠点病院の応援に入ることになっています。フランスのコロナ感染者は、日本の比ではなかったのですが、医療崩壊が起こらなかったのです。松田氏は、日本でこのシステムを導入するには、「診療報酬をもっと上げ、医師を増やし、医師労働の軽減をすすめないとできない」と話しています。

厚生労働省の政策立案者のメンバーも、我々が指摘している日本の医療政策の問題点を認めています。医療費削減政策を転換しないかぎり、問題の解決はできないといえます。

2類から5類への変更について現場で予想される問題をお話しください

 医療機関への公的負担の半額化や、患者の窓口負担の発生から受診が遅れ、感染の拡大や重症化が懸念されます。老健施設や特養の立場から言えることは、世の中が制限なしになると、職員が感染するリスクが高まることです。職員が感染すると利用者=高齢者のところに持ち込まれる。それは避けることができない。だから、すぐ受けられる病院体制をきっちり確立してもらわないと、前と同じことが起こったら、留め置きがもっと増える。5類にする前提として、コロナ弱者に対して、医療が過不足なく受けられる体制が整っていることが条件です。行動制限が緩和されることには基本的には賛成ですが、弱者へのきっちりした対応が大前提です。

医療費抑制政策にストップをかけるためには何が必要でしょうか
また、自治体、自治体職員への要望をお聞かせください

コロナ禍で明らかとなった問題を、自らの問題として動き出す人を増やすことが必要と思います。今回の問題でも、何が問題なのかどうすれば変えることができるのかを示していくことが必要です。そういう点で、自治体労働者の果たす役割は重要で、皆さんへの期待は非常に大きいものがあります。

たとえば、多くの保健師のみなさんは、入院しなければならないのに「入院できない」と言わざるを得なかったことに、心を痛め苦しんでいる方もおられると思います。「大変だった」で終わらせずに、「どうやったら変えることができるか」に視点を発展させてほしいと思います。そのためには、誰かが、こうしなければならないと提案しながら、声を集めて行くことが必要と思います。自治体職員は、住民の命を守るために、何をすることが一番必要なのかを考え行動して欲しいです。

自治体には、住民のいのちと暮らしを守るための独自施策と、国に対して住民の声や医療費抑制政策の問題点をしっかり伝え政策転換を求めて欲しいですね。


京都自治労連 第1999号(2023年6月5日発行)より

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