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機関紙 - あの人に会いたい35 龍谷大学 法学部教授 本多 滝夫さん…沖縄を基地のない平和な島に代執行は沖縄県だけの問題ではない

あの人に会いたい35 龍谷大学 法学部教授 本多 滝夫さん…沖縄を基地のない平和な島に代執行は沖縄県だけの問題ではない

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組合活動
 2024/2/5 9:00

ほんだ・たきお=
1958年愛知県生まれ。
名古屋大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得退学。名古屋大学、愛知教育大学、広島修道大学を経て、2001年4月より現職。
専攻は、行政法学、地方自治法学。主な著書に『デジタル化と地方自治』(共著、自治体研究社)、『自治体DXでどうなる地方自治の「近未来」』(共著、自治体研究社)、『辺野古裁判と沖縄の誇りある自治』(共編、自治体研究社)など。


辺野古代執行 民意と自治否定の暴挙
政府は工事を中止して対話に応じるべき

沖縄の名護市辺野古の米軍新基地建設で、大浦湾の埋立予定区域の海底にある軟弱地盤の改良工事を強行するために、斉藤国土交通相は、玉城デニー知事が応じるのを拒否してきた設計変更の承認を代執行しました。自治体の事務を国が地方自治法に基づき代執行するのは初めて。これは「国と地方は対等」と位置付ける日本国憲法の理念を揺るがす大きな全国的問題です。この問題に詳しい龍谷大学法学部教授の本多滝夫教授にお話を伺いました。

■辺野古に米軍新基地建設は何が問題なのですか

第1は、戦後78年たった現在も、日本の国土面積の0.6%しかない沖縄県に、全国の米軍専用施設面積の約70.3%が集中していることです。普天間飛行場の代わりに、辺野古に新基地を建設することが、沖縄県の米軍基地負担の軽減には全くつながりません。逆に機能が強化される新基地は、負担増となります。

第2は、大規模な埋め立て工事が、辺野古・大浦湾周辺の貴重な自然環境の破壊につながることです。

第3は、辺野古新基地の総工費を政府は当初2300億円としていましたが、2019年には、当初の4倍の9300億円としました。しかし、完成までには1兆円を大きく超えると言われており、国の財政を圧迫することになります。

第4は、沖縄県知事選挙や参議院選挙の結果、さらには2019年の普天間飛行場の代替施設としての辺野古埋め立てについての県民投票では、投票総数の7割以上が反対という民意を踏みにじることが許されるのか、という民主主義を蔑ろにしている問題です。

■代執行手続は、どのようなものですか

代執行手続とは、自治体が処理する責任を負っている地域の事務のうち、国が本来果たすべき役割に関係するものである第一号法定受託事務(国政選挙、感染症対策、戸籍事務、生活保護、公有水面埋め立ての承認など)を国が都道府県知事に代わって行う手続きで、地方自治法が根拠となっています。

代執行の要件は、(1)知事の管理・執行が法令の規定に違反する場合、または、管理・執行に怠りがある場合、(2)代執行以外に是正することが困難であるとき、(3)放置により著しく公益を害することが明らかであるときです。

まず、所管の大臣は期限を決めて、知事に改めるよう「勧告」をし勧告通りにしなければ、つぎに、また期限を決めて「指示」を出し、それに従わなければ、さらに、大臣は、知事に対し指示の内容と同じことを命令するよう高等裁判所に訴訟を起こす。大臣の請求に理由があると認めれば、高等裁判所は、命令を知事に出す。それにも従わなければ、大臣が代わって命令の内容を執行するというものです。

今回の工事の設計変更は、大浦湾の埋立予定地に「マヨネーズ並み」の軟弱地盤が広範囲に見つかったためです。公有水面埋立法に基づき知事の承認が必要で、防衛省沖縄防衛局が設計変更を申請しました。デニー知事は、「地盤改良工事は環境保全や災害防止に十分配慮したものになっておらず、工期も不確実で米軍普天間基地の危険性の早期除去にはならない」として不承認にしました。

知事の不承認に対し沖縄防衛局は、行政法研究者の目からは国民の権利・利益の救済が本来の目的のはずの行政不服審査法を濫用し、公有水面埋立法を所管する国交相に審査請求し、国交相は知事の不承認を取り消す裁決を行いました。辺野古新基地建設を推進する政府機関の沖縄防衛局が、埋立工事は国民一般と同じ立場で行っていると称して(「私人になりすまし」て)、同じ政府の国交相が「身内」審査で知事の不承認を取り消すという、前代未聞のやり方で何の道理もありません。

岸田政権は、上告審の判断がこれからあるにもかかわらず、早々に大浦湾での埋立工事の準備をしています。しかし、今後も、難しい地盤改良工事のため設計変更承認の申請が出てくるだろうと、代執行の裁判をした裁判所自身が認めています。そのたびに、同じことの繰り返しが予想されるので、国は沖縄県と協議をしなさいと言っています。裁判所も大浦湾での埋立工事がかなり難しいことを認めているわけです。それならば、裁判所は「そんな無理な工事はやめなさい。代執行で強行するのではなく、沖縄県と協議をしなさい」というべきです。ともあれ辺野古新基地建設を阻止するためのたたかいは続きます。

■今回の沖縄の代執行が、他の自治体にどのような影響を及ぼすと考えられますか

今回の代執行は、民意に基づく都道府県の自治的判断を政府の思うままに覆す先例をつくるもので、沖縄県だけの問題ではありません。今、海上自衛隊基地や一般の港湾の米軍との共同使用が進められようとしています。そのための新たな埋立工事が必要となった場合に、反対しても無駄だと自治体に思わせることにならないかと懸念しています。

また、法定受託事務になっている産業廃棄物や感染症対策等について、民意を踏まえた知事の判断に対しても、国の方針が代執行で強行される可能性が出てきます。沖縄の問題は、決して他人事ではありません。

さらに私が心配しているのが、首相の諮問機関である地方制度調査会の答申を受けて、政府が、1月26日から始まった通常国会に地方自治法の改正案を出そうとしていることです。大規模災害や感染症危機などの非常事態であれば、個別法に規定がなくても国が自治体に必要な指示ができるというものです。これは、自民党の憲法改正案の緊急事態条項を先取りするもので、私は、憲法改悪の露払いの役割を担っている非常に危険なものだと思います。全国知事会からも懸念が出されています。

■自治体職員、労働組合への要望についてお話しください

能登半島地震では、多くの方々が被災しました。今、自治体の職員が、救助・復旧のため昼夜の区別なく懸命に奮闘されていると思います。災害のなかで住民を助け、地域を守っていくためには、日常業務のなかで住民に寄り添い、住民との絆や信頼関係をつくることが大事だと思います。そのためには、住民とともに地域を守れる職員を、自治体はもっと採用しなければならない。さらに、職員が働きやすい職場環境や労働条件の改善が必要です。

労働者としての要求と、住民に対する自治体の役割・責任とを結びつけた運動を展開している自治労連の活動に大いに期待しています。


京都自治労連 第2007号(2024年2月5日発行)より

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