機関紙 - 原発に依らない地域再生へのビジョン −ふるさとの宝物を未来、次の世代へ− 地域から考える原発への依存と防災
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から2年2ヶ月。大飯原発が再稼働している下で、放射能被害の実態と、原発事故時の避難の実相を学び、原発周辺自治体の原発防災と、立地自治体の今後を考えようと、5月26日、京都自治体問題研究所、立命館大学地域政策研究会、京都自治労連、舞鶴市職労の4団体が主催し、舞鶴市中総合会館にて「地域から考える原発への依存と防災」と題した集会を開催。
福島第一原発事故での原子力災害によって警戒区域に指定され、全住民避難となっている福島県富岡町から、菅野利行総務課課長補佐が被災地の現状を報告しました。
集会は、この間の調査研究活動の中間報告として行われ、今秋に提言をまとめる予定です。
机上の空論でしかなかった防災計画
時間と距離が事故を遠い存在に
福島県富岡町総務課 課長補佐 菅野利行さん
菅野さんは、「震災と原発事故から2年2ヶ月が過ぎたが、未だに富岡町には戻れず、町には誰も住んでいない。町民1万6千人、7600世帯が現在も全国47都道府県にバラバラに避難している。20キロ圏内の警戒区域は解除されたが、避難指示は依然として残ったまま」と富岡町の現状と、震災時に震度6強、21メートルの津波が町を襲い、家屋をはじめ、町そのものが流出するなど甚大な被害を受けたことを報告。
「情報が寸断され、オフサイトセンターも機能せず、いっそうの困難を招いた」と当時の状況を振り返りながら、「地震、津波の被害が分からず、携帯も繋がらない中、職員間の意思疎通、情報共有ができる状態になかった」とし、道路の崩壊や分断によって避難に支障をきたし、20数キロにわたる大渋滞が起こったことなど説明しました。
全町避難から2年、「住む場所については落ち着いてきたが、県外に3分の1、いわき市に3分の1、郡山市に3分の1と町民はまだまだバラバラの状態で、コミュニティーもバラバラのままだ」。
住民・地域が見えない線で分断
「3月25日に法律的な制限である警戒区域が解除されたことで、法的責任が国には無くなった。今後誰が責任をもつのかと言えば自治体の首長になる」
「国は避難指示が残る中、警戒区域を法的に解除し、避難指示区域を線量で、50ミリ以上は帰還困難、20〜50ミリは居住制限、20ミリ以下は解除準備として3つの区域に分けた。避難区域が3つに分かれるという事は、道路を挟んで賠償額に格差、違いが生まれることにつながる。地域そのものがバリケードで分断され、地域コミュニティーもバラバラに住んでいるために難しく、その上、賠償額で格差がつけられ、住民が分断される事態が起こっている」
「2月に行ったアンケートでは、戻りたい15%、戻らない40%、迷っている43%との結果が出た」と報告し、戻らない理由として、放射性廃棄物の中間貯蔵庫や仮処分場の建設が住民に知らせないまま進められている事をあげました。
「国も県も役に立たない、東電も数字の説明しかしない。通信手段が寸断され、情報が共有できない、指示が出せなくなった」とし、「原発事故では防災計画は何の役にも立たなかった」と強調。「また、必ず収束して終わる」訓練そのもの障害も明らかになったと報告しました。
最後に、「除染やライフラインの整備など、課題の解決が一つでも欠けると町民の帰還が困難になる」と指摘し、「地元紙では現状を詳細に伝えているが、全国紙では情報を伝えていない。富岡町の現状、原発事故を風化させてはいけない。決して忘れないでほしい」と訴えました。
現地調査と財政分析からみえた原発マネーの実態
舞鶴市職労 書記長 杉本 保さん
ただ?原発反対”を言うだけではなく、原発立地自治体が自立できる政策提言が必要と考え、おおい町の財政分析を実施、政策提言につなげようと取り組んでいる。
人口8800人のおおい町の財政規模は、2011年度歳入111億円で一人当たり125万円、舞鶴市と比較すると、人口8万8000人、歳入360億円で一人当たり41万円と、おおい町は約3倍の歳入であることが分かった。原発誘致に伴う電源立地地域対策交付金などは、1基につき、1215億円もの豊富な交付金が立地自治体と周辺自治体に落ちることも分かった。
町内には、2つの温泉施設や、図書館、野球場、体育館、フィットネスセンターなどが存在し、現在サッカー場やフットサルコート、パターゴルフ施設が建設中。とても人口8800人の町とは思えない豪華な施設が立ち並んでいる。
原発の過酷事故が起これば、舞鶴市の避難計画では全市民を避難させる事になっており、事故が起きるとゴーストタウンとなる可能性など、危険なものが舞鶴市に隣接していることがあらためて明らかになった。
原子力行政の本質見抜き政治の流れ変える運動を
おおい町 町会議員 猿橋 巧さん
原子力発電所をめぐる状況は、自民党が諸外国に原発を売り込み、参院選公約に原発再稼働を明記するなど後退につぐ後退を重ねている。原発の安全性、放射能やまちの再生などの問題はどれも深刻な状況にあり、政府、電力企業など推進派に負けない運動を広げることが重要になる。
活断層の問題では、関電は大飯原発の建設申請で、活断層はないとした資料を提出したが、16キロにわたる活断層が2か所、原発から2キロの場所に通っていることが明らかになり、破砕帯の存在も指摘されている。町民に危険を知らせず、建設を進めてきた関電の体質だ。
防災の問題では、県が示した避難場所は敦賀市。これが町民のいのちを守るための防災計画なのか。
人口8800人の身の丈に合わない異常な施設、原発ハコモノ施設がたくさん建設されている。反対運動は、安全性だけでなく、ハコモノ行政の将来の財政問題も一緒に考えていかなければ理解は得られない。原子力行政の本質をしっかり見抜き、住民運動を高めると同時に政治の流れを変えていく運動が求められている。
原発廃炉事業を公共事業に位置づけを
立命館大学 地域政策研究会 森 裕之さん
原発立地の地元がどう再生していくのか、地域の視点に立った脱原発運動を考えていくことが求められている。
財政分析を進める中で、町財政の歳入に占める原発関連収入の割合は40〜50%と高く、原発が動き出して以降、財政力指数は1を超えていることが明らかに。電源三法交付金は当初の公共施設建設の目的から施設の維持運営や産業技術振興へ、立地促進から恒久的な地域振興政策へと変質してきた。ハコモノの維持管理としての建設事業費の割合が多い点も財政分析から見えてきた。おおい町の財政構造は、多額の原発関連収入が公共事業を誘発し、建設された公共施設の維持管理費が肥大化している。
防災計画をつくったとしても、富岡町のように想定した道路が崩壊するなど住民の安全を確保できる状況にない。原発の廃炉事業を公共事業として位置付け、電源三法交付金は廃炉交付金として、地元自治体が崩壊しない施策を考えていかなければならない。本当の意味での脱原発に向けて地域の実態に即した運動、調査研究が必要になっている。
京都自治労連 第1801号(2013年6月5日発行)より