機関紙 - あの人に会いたい18 農事組合法人ほづ 代表理事 酒井 省五さん…生産者米価暴落の影響深刻 政府は、国民の食料確保に責任を
さかい・しょうご=
1941年生まれ
1960年 亀岡高等学校卒業、ゼネラル商事入社
1965年 京都府経済連入会
1995年 京都中央農協へ
2004年 京都中央農協退職
2005年 農事組合法人ほづ理事
農家が安心して営々と続けられる農業を
コロナ禍のもと生産者米価が暴落し、コメを生産する農家の困窮が大きな問題となっています。『あの人に会いたい』第18回は、規模や事業内容から全国的にも注目されている「農事組合法人 ほづ」(以後「ほづ」)の代表理事である酒井省五さんをお尋ねして、「農事組合法人」のこと、生産者米価の暴落問題や日本の農業についてお聞きしました。
――「農事組合法人 ほづ」の事業規模・内容を教えてください
酒井 保津地区は、亀岡市の東部に位置し保津川下りの出発点です。保津川がもたらす肥沃な土壌に恵まれる一方、たびたび水害に見舞われてきた歴史があります。「ほづ」の事業規模は、保津町全域の農地面積130ヘクタールの内52ヘクタールを有し、組合員数333戸(ほとんどが兼業農家)、職員4人、オペレーター4人。事業展開としては、水稲は、商標登録している保津のひかり(ヒノヒカリ)、コシヒカリ、日本晴(すし米)などや、飼料米を生産。営農団地では、黒大豆、ネギ、玉ネギ、菜の花などを栽培しています。
――法人を立ち上げた理由、各農家の合意までの取り組みをお聞かせください
酒井 昭和58年、政府の減反政策が始まり、保津では、減反政策の助成金を最大限にいかせる集団転作を実施しました。そのやり方は、農家ごとに全く米を作らない年を設けて、保津全体で減反目標を達成するというものです。
これによって各農家では、米を栽培する年と、まったく栽培しない年が生まれました。そうすると、まったく栽培しない年は、コメ作りの農作業から解放され「楽やな」となったのです。もともと農家の担い手となる若い方には「農業はしんどい、儲からない、やりたくない」との思いが強いです。
また高齢化、過疎化が進行して、「コメ作りを止めたい、誰かつくってくれへんか」という声があっちでも、こっちでも出てきました。
この様な中で、平成14年から農事組合法人の検討を始め、全農家へのアンケート調査や法人化の研修会への参加、先進地の視察などを行い、平成16年に「法人化設立準備委員会」を発足させました。
一年間に18回の委員会を開き、法人化の目的や出資方法、農地の受託、個人所有の機械の取り扱いなど、合意作りへの検討会を重ねました。委員会の内容は、地区説明会や公報で知らせました。法人化に同意が得られない農家には、「農業者も、集落で農業を守るという意識に変わることが必要」と繰り返し説明を行い、同意を広げていき平成17年「ほづ」を設立しました。しかし、同意を得られない農家もあります。
「ほづ」設立から16年。今では、農家から「良かった」と感謝されています。融資の返済や米価問題など悩みは尽きませんが、頑張ってきて良かったと思います。
――今、力を入れて取り組んでおられることはどの様なことですか
酒井 一言でいうと、新技術の導入等で効率的作業を進め、若い人に興味を持ってもらえる内容にすることです。
穀物検査は、職員に資格を取ってもらい「ほづ」で出来るようにしました。刈り取ったコメを乾燥させる大型乾燥調整機を3台に拡充して、コンバイン作業と乾燥の流れの効率化をすすめ、かかる時間を短縮してきました。また、アユもどきの生息環境を守る取り組み、農村生活体験などにも取り組んでいます。
今、力を入れているのが、スマート農業実証プロジェクト(平成31年4月〜令和3年3月)の取り組みです。農林水産省の補助金を利用して、コンピューターを使ったほ場管理・作業管理や、無人の自動運転トラクターの導入、自動給水システム、ドローンを使っての防除などを行っています。
――生産者米価の暴落は、どのような影響が出ていますか
酒井 昨年、コシヒカリは30キロ7000円だったものが、今年は5700円で1300円も下がっており、私のところでも大きな減収になると見込んでいます。農業共済収入保険制度に加入しましたが、この問題は深刻で、コメ作りを止める農家や、解散する「農事組合法人」が増えるのではと心配しています。
アメリカでは、コメの販売価格が生産者コストを下回った分は、アメリカ政府が補助金で全額負担しています。日本とは大違いです。だから農家は、安心して農業経営が出来るのです。
――国や行政への要望をお聞かせください
酒井 先日、岸田首相が京都に来られた時に、農業関係者の代表の一人としてお会いする機会があったので直接話をしたのですが、「生産者米価が下がり農家の経営は持たない。政府は民間活力ばかり言ってきた。コメを作る農家がいなくなり、コメが石油のように値上がった時に、政府は国民に食料提供できるのか、農家が安心してコメ作りができるよう国が責任を持つという立場にしっかり立つことが必要」といいました。
私は、フランス、ドイツ、スイス、オランダ、イギリスなど様々な国へ視察に行く機会がありました。それらの国々では、自国の農業・農家を維持・育成する予算を組んで農業を安心して続けられる補助金を出しています。政府が、食料確保に責任を持つ立場に立っています。
行政は、農家にしっかり寄り添っていただき、必要な情報は早く提供してほしいですね。例えば、補助金の書類作成も農家にしたら大変で、丁寧な援助を求めたいです。また、来年の作付面積を決めなければならない時に、府の計画がなかなか示されず困ることが少なくありません。コメ暴落に対する自治体独自の施策も求めたいです。
皆さんと力を合わせ、基幹産業の農業を農家が営々と続けられ、若者に魅力ある産業にしたいですね。
農事組合法人とは、
農業協同組合法に基づいて設立され、組合員の農業生産についての協業を図ることにより、利益の増進を目的とする法人です。法人が行う事業は、農業関連のものに限られ、個人の組合員も理事も、農民でなければなりません。
京都自治労連 第1981号(2021年12月5日発行)より