機関紙 - 司書のイチオシ(5) 階段ランナー 吉野万理子/著 徳間文庫/出版
実在する「京都駅ビル大階段駈け上り大会」を軸に描かれる青春物語です。家庭事情により水泳を諦めた広夢と、身体の異変(イップス)に苦しむ卓球選手の瑠衣。二人の高校生はちょっとした勘違いで学校の屋上で出会います。気の強い瑠衣と、怒らない草食動物のような広夢。噛み合わない二人がお互いを知っていく過程で、少しずつ変化していくのですが、このもどかしい距離感が素敵なのです。それぞれの状況が深刻なのに悲壮感が少ないのは目標に向かって前向きに進んでいく姿のおかげでしょう。
諦めることからスタートして、一緒に階段を走ることを通して再生する。明るい未来を約束したかのようなラストシーンが読後感爽やかな小説です。読むと京都駅の大階段を見に行きたくなりますよ。
京都自治労連 第2023号(2025年6月5日発行)より