機関紙 - 福祉:住民のための手話言語条例の実効と前進…障がい者のいのちと人権を守る責任 誰もが安心して暮らせる行政サービスを提供
向日市は、誰もが暮らしやすい市をめざす自治体施策のひとつとして、2017年3月に「古都のむこう、ふれあい深める手話言語条例」を制定し、住民はもちろん他の自治体からも注目されました。
条例施行から今年で5年目となります。引き続き条例の実効と発展に奮闘するAさんにお話を伺いました。
手話通訳士として条例を実効あるものに
Aさんは向日市に就職して6年目。手話通訳士の資格(厚生労働大臣認定の国家資格)を持っています。「採用されてすぐに手話言語条例の検討がスタートし、施行となりました。あれからもう5年になろうとしているんですね」とこれまでを振りかえります。
Aさんは条例を市役所内外へPRするために、ポスターやチラシ、パンフレット、手話マンガなどの作成に携わります。「ろう者の方々のことを知っている担当課の皆で議論しながら作っていきました」とAさんとAさんの息子さんが手話をする姿が載っているポスターを見て照れ笑いします。
他にも職員向けの手話研修の実施や手話動画の作成などにも携わります。「市のホームページやYouTubeにも動画をアップしています。市長の動画メッセージでも私たちが手話通訳をしています」タブレット端末を活用した遠隔手話通訳も行っています。
Aさんは、「聞こえる人には気が付かない苦労や不便がろう者にはあります。ろう者の方々の暮らしの課題を知ってもらうことも重要です」「市役所の窓口ではいのちや財産にかかわる相談もあり、言語の通訳だけでなく生活や人権を守る仕事を担っています」と仕事への責任ややりがいを話します。
手話と多くの人との出会いと手話通訳士資格取得への決意
Aさんが手話の学習を始めたきっかけは、学生時代に友人から手話教室を一緒に受講してほしいと誘われたことでした。「英語学を専攻していたので、最初は、言語のひとつとして、その表現方法や伝達力に魅かれていました」とAさん。手話への興味が増す一方で、そこで出会うろう者の方々のイキイキとした姿を見て、「障がい=不幸ではない」と実感しました。
卒業後は民間企業で働いていましたが、ボランティア・サークルなどで手話に関わり、手話通訳者の資格を取得しました。結婚後、配偶者の転勤で甲信越地方の小さな市に引っ越したAさんは、手話通訳者がいない地域がたくさんあることにショックを受けます。「地元出身の通訳者ではないけれど、少しでもろう者の皆さんに安心してもらえるように」と手話通訳者からさらに難しい手話通訳士の資格取得を決意しました。
障がい者と家族に寄り添い速やかな行政サービスを提供
Aさんの所属は市民サービス部障がい者支援課です。普段は、聴覚障がい者支援関連業務とさまざまな障がいを持つ方々のケースワーカーの仕事をしています。障がい者自らが窓口に相談に来るケースや、高齢者支援の中で、その家族に障がい者がいて、急きょ支援に入るなど、他の部局との連携はもちろん、事業所や障がい者団体との連携も重要です。「乙訓2市1町との情報交換などもあり、地域丸ごとで支援ができていると思います」とAさん。「皆さんに配布しているものです」と見せてくれた80ページ以上におよぶ「障がい者福祉のてびき」は、利用できる行政サービスや法令、様々な関係団体などが掲載されとても、わかりやすいものになっています。「障がい者支援課の皆がそれぞれの仕事を把握してくれていて風通しのいい職場です」と誇らしげに話します。それでも途切れることがないケース対応などで連日忙しい毎日です。
「新型コロナウイルスの感染を恐れ、休日の外出をやめてしまわれた障がい者とご家族もいるなど、家庭内でのストレスが溜まっておられる方が多い」とAさん。コロナが収束しない中で心配がつきません。
「安心して住み続けたいと願う障がい者やご家族、団体の思いに寄り添う仕事を引き継いでいきたい」とAさんは笑顔で答えてくれました。
京都自治労連 第1974号(2021年6月5日発行)より