機関紙 - 【植物園】府民の財産と地域環境を守る…戦前から続く府立植物園を守り維持する…固有種を育て守っていく責任の重さを感じます
京都市左京区にある京都府立植物園は、日本で最初の府立植物園として戦前の1924年に開園された歴史ある植物園です。園内南側にはバラや四季の草木が鑑賞できる造形花壇や規模、種類とも日本一を誇る観覧温室など人工造形の観覧施設、北側には自然林である「なからぎの森」や日本各地に自生する桜や梅、竹笹などをできるだけ自然に近い状態で植栽した植物生態園があります。
この植物園の植物を管理する職員のひとり・Aさんに仕事の事や職場へのおもいなどを聞きました。
「蘭」だけで1200近い品種
細心の注意払って育てていく
「府立植物園では4つのグループに分けて仕事をしています。1つは水耕植物や絶滅危惧植物などを扱う企画、2つ目は温室、3つ目は種を作り種から育てる花壇、4つ目は園内の様々な木を育て維持する樹木です」。
Aさんは「どのグループも標本でなく生きた植物を育て守り後世に伝えていくことに主眼に置いています。それが公園ではない植物園たる所以です」と胸を張ります。園内を歩くと「雑草かな?」と思う小さな植物にも管理番号が書かれたタグがつけられています。この広い園内を20人ほどの職員で管理しています。
Aさんは現在温室グループ。案内された温室には数百もの小さなポットにひとつひとつタグがつけられたポインセチアがところ狭しと並びます。「ポインセチアだけで140品種。食虫植物は数百種、蘭だけでも1200種以上あります。本当に管理が大変です」と話します。今育てているポインセチアをはじめ、ベゴニアやサボテンなど、年間9回に及ぶ種別の植物展示会に向けて育成させます。バックヤードの温室は8棟あり、ひとつひとつの発育状況を見ながら、水をやり肥料を与えます。「マニュアルなどありません。生き物ですから…」と、これまで積み重ねてきた経験と自信がうかがえます。
府民の財産守り
府民に還元していく
「この仕事に就いて30年になります」と照れ笑いするAさんは、現業職の土木技術士として京都府に就職しましたが、職員募集があり今の植物園に異動してきました。「新しいことを求めて植物園にやってきましたが、右も左もわからなかったので必死でした」と当時を振り返ります。
府立植物園は戦後、連合国軍総司令部(GHQ)に接収され、多くの樹木が伐採されました。再建に奮闘した府の職員がAさんの先輩にあたります。「先輩から様々なことを引き継ぎました。『府民の財産を預かり府民に返していく』が貫かれていました」と話すAさん。栽培や管理の技術を一緒に働きながら懸命に覚えてきました。全国各地の植物園とも情報交換を行いながら植物の保存、育成に力を入れています。「他県の植物園の話ですが指定管理が導入され、生育に5年10年とかかる植物育成の継承ができない事態が発生しています」と、昨今の委託化・民営化に不安を感じています。「今、若手職員が頑張ってくれています。技術継承しながら植物園を守り発展させたい」と抱負を話してくれました。
果たしてきた役割を再確認
植物園はいまのまま守りたい
Aさんは、長年植物園に携わってきた経験から、植物園の敷地を潰しアリーナをつくろうとする「北山エリア整備基本計画」に疑問を呈します。
「貴重な樹木が伐採されることはもちろんですが、植物園とその周辺の環境が変わってしまい、作物に与える影響は大きい」とAさんは指摘します。また、北部から吹く風の影響なども心配です。「園内や周辺の樹木は、防風の役割を果たしてきました。昨今の異常気象からもなおさら心配です」と長い歴史の中で、府立植物園が防災の観点でも役割を果たしてきたことを教えてくれました。
最後にAさんは「あと3年で植物園は100周年を迎えます。府民の皆さん、地域とともに発展してきたことはうれしいですね」と話し、府立植物園が全国的にも貴重な「生きた植物の博物館」であり、地域の生態系や防災の観点からも重要な施設であることを強調されました。
京都自治労連 第1978号(2021年9月5日発行)より