機関紙 - 【市民窓口】いちばん身近な市民との接点…積み上げられてきた正確性と安全性 個人の権利と個人情報をしっかり守っていく仕事
「引っ越しをした」「子どもが生まれた」「ローンを組むのに所得証明が必要」など、生活の節目で訪れる市町村役場の窓口。そこで様々な手続きや申請をしたり、住民票など必要書類を取得したりします。今回はその窓口の仕事について、京都市下京区役所市民窓口課のAさんにお話を伺いました。
住民の人生を記録した戸籍
全てを自治体で管理
Aさんは京都市に就職して30年。主に区役所での窓口業務を経験してきました。現在は戸籍業務を担当しています。出生や死亡、結婚、離婚等の様々な届出を受付、受理の可否から必要書類の発行までを行います。戸籍届出の情報はその人の選挙権や納税、相続など、権利・義務や財産にも関わってきます。結婚や離婚、縁組、離縁などの届出は、受付日はもちろん時刻まで記録されるといいます。「届出後の数時間後に相続権が生ずる場合もあり得るということです。何時ということが厳密に重要なんですね」とドラマのようなケースを紹介してくれました。
京都市では2013年から戸籍の電算化を行ってきましたが、手書きのままの戸籍も少なくありません。「電算化にあたって、あなたの名字の漢字が通用字体の『正字』になりますよという旨の通知を対象の住民に通知したところ、『この名字は先祖代々の文字なので変えてほしくない』との申し出がいくつもあったと聞いています。そのため、電算化されても一部手書きの戸籍という方々がいます」とAさん。「京都は歴史ある街ですから件数も他の自治体より多いかもしれませんね」と笑います。
続けて、「戸籍にはその人がいつどこで生まれたか、結婚、出産、そして死亡まで、その人の人生が記載されています。死亡届によって除籍となった戸籍も含め、情報を自治体が保存・管理しています。すごいことですよね」と自分の仕事を再確認するように話してくれました。
市民窓口課は個人情報だらけ
広域化に問題意識が必要
下京区の市民課窓口には、住所異動や証明書の発行、戸籍の届出など全体で一日150件から200件くらいを対応しています。職員は申請書記載指導担当の会計年度任用職員以外は正規職員での配置です。窓口に出された届出を複数人でチェックしていきます。「役所が受付・発行する書類ですから渡す相手や渡す内容に誤りがあってはならないのは当然なので、今でも緊張しながらの窓口です」とAさんが何気なく言ったひとことが響きます。
戸籍の届書は本籍地の自治体で記載するため、審査・決裁後ただちに当該自治体に郵送します。いま現在、総務省が届出から戸籍記載の完了までをより迅速にすることなどを主な目的として、戸籍データの全国ネット化に向けていくつかの自治体を対象に試行実施を行っています。本格実施になれば、全ての自治体で、届出書の入力内容とスキャンデータ等を関連する本籍地に送信するといった「デジタル」な業務がはじまります。Aさんは「職員の仕事は手書きからパソコンに変わっていっているけど、届書は紙で出す必要があるし、制度としては今のところ大きく変わってない。しかし、情報の広域化がさらに広がることへの問題意識が必要」といいます。
自治体の責任と住民の
安全性担保が課題
最後に、今全国で進んでいる証明発行の広域化や行政窓口の民間委託化について聞きました。「広域化については、各種の証明書が全国どこでも取得可能になったり、コンビニで交付できたりと、利用者=住民の利便性は上がっているし、上げていくことは大事だと思います。しかし、今起きているマイナンバーカードに関する事故とそれに対する政府の無反省な対応を見ていると、疑問を感じる市民も多いのではないでしょうか。市民と行政の関係は、制度や仕組み、システムの正確性や安全性を担保されているという信頼感があるから成り立っている枠組みだと考えます」。
広域化はシステムの安全性や私たち職員の個人情報の管理の点でも新たな課題が出てきます。「これだけの個人情報を抱える行政業務、とりわけ市民窓口課の業務に民間委託するところはないと思っています」とキッパリとAさん。長年市役所で窓口の仕事に携わってきた言葉には重みを感じました。
京都自治労連 第2001号(2023年8月5日発行)より