機関紙 - もう一度希望をもって前に…被災地に思いを寄せてつながろう
2024年1月1日16時10分、石川県の能登半島で最大震度7の地震が発生。「令和6年能登半島地震」と名付けられたこの地震で、沿岸部では津波により家屋が流され、輪島市では約200棟の家屋が焼失しました。激しい揺れにより各地で道路が寸断され、ライフラインの復旧にかなりの時間を要しました。
能登半島地震から1年が経過した今、頻発する自然災害への対策や、万が一発生した場合の復旧・復興に国や自治体はどうあるべきなのか、奈良女子大学名誉教授の中山徹さんに聞きました。
また、現地でのボランティアに複数回参加してきた京都市職労のGさんの報告から、自治体で働く職員として被災地や被災者にどう寄り添い支えていくのかを考えます。
行政に求められる復旧・復興の視点
奈良女子大学名誉教授 中山 徹さん
職員削減が大きな妨げに
能登半島地震で気になったのは、行政は本気で国民を自然災害から救おうとしているのかという点です。適切な対策を進めるためには被害予測が重要です。石川県地域防災計画でも被害想定をしていましたが、実際に発生した地震ははるかに大きく、死者は被害予測の67倍、建物の全壊は50・6倍、避難者数は12・3倍でした。これでは十分な対策が取れません。また、日本の避難所の劣悪さは繰り返し指摘されていますが、ほとんど改善されず、能登半島地震でも死者のうち、災害関連死がすでに半数を超えています。
平成の大合併が強行され、奥能登地域では2市4町1村から2市2町になり、それに伴って自治体職員も削減されています。地震直後、行政職員は集落の状況を把握し、避難所を開設し、市民の声に耳を傾けます。また復旧後は、市民とともに集落の復興について議論します。そのような重要な役割を果たす行政職員が新自由主義的な政策で大幅に減らされ、残った職員の相当部分が非正規化されました。この状況が、復旧、復興の大きな妨げになっています。
生活・生業の再建を最優先に
復興を巡って注意しなければならない国の動きが二つあります。一つ目は、復興に乗じた過疎地の集約化です。これは人口減少、将来需要、維持管理コストを考慮すると、震災前の地域で暮らし続けるのではなく、復興を契機に集落やインフラの集約化を進め、効率的な市町に再編すべきではないかという考えです。もう一つは、戦争できる国づくりの推進で、復興を機に輪島分屯地や能登空港周辺で自衛隊の強化を図ろうという考えです。
復興の基本方向としては以下の四点が重要です。一点目は、集約化、戦争できる国づくりではなく、生活・生業の再建を優先させることです。二点目は、「国→県→市町」という上からの復興ではなく、「集落→市町→県→国」という地域からの復興を進めることで、それを実現するために自治体の再建に取り組むことです。三点目は、災害に強いまちづくりを本気で進めることです。毎年のように各地で自然災害によって多くの命が失われています。適切な対応を事前にしておけば救えた命が少なくありません。四点目は、人間の復興です。「地震後、生活の再建を頑張ってきたが、豪雨で心が折れた」という意見が出されています。災害で最も怖いのは、被災者の方々が希望を失うことです。市民が「能登で暮らし続けよう」ともう一度、希望を持つこと、この人間の復興抜きに、地域の復興は語れません。
被災者とともに前にすすむ―自治体労働者としての姿勢
京都市職労 Gさん
自分たちを忘れないで
能登半島地震から早一年、能登豪雨災害から二ヶ月あまりが経とうとしています。2024年は二度の行政派遣と、毎月のように参加した災害ボランティアに明け暮れた1年でした。
昨年1月下旬、京都市の対口支援先の七尾市、和倉温泉のある和倉小学校に避難所運営支援業務で訪れました。100名を超える避難者の数、高齢者、若い妊婦世帯など、様々なアプローチが必要と思われる家族模様であふれていました。
4月に再び七尾市へ。被災家屋の被害認定業務に従事しました。
行政は、公平公正の名のもとに、災害時しかり、抑制的な運営方向に流れやすい実情があります。
しかし、被災者の声を聴き、思いをくみとることも大切な仕事です。そのことから、必要な情報を伝える支援が求められます。
その後も、6回にわたるボランティア活動で、作業を行いながら、被災者とのコミュニケーションを大切にしました。そのなかで、行政に対する不満や、やるせない気持ちの吐露もありました。被災者は復旧とともに、自分たちを忘れないでほしいと願っています。
つながりを活かした支援を
自治体労働者としての支援業務、個人ではボランティア活動の経験を通して思うことはありきたりですが、被災者の思いに寄り添い、その思いをくみとることです。行政支援や様々な情報など自治体労働者だからこそ知りうることを被災者のニーズにあわせて伝えることも大切です。
また一面的に対応するのではなく、様々なつながりをつくり、そのつながりを活かして支援の流れを作っていくこと、そして、「被災者とともに前にすすむ」という姿勢をもつことです。まだまだ復興途上です。これからも能登の再生に関わっていきます。
京都自治労連 第2018号(2025年1月5日発行)より